10月から作成開始になった「Hファイル」に対応する形で、次世代型病院経営支援ツール「病院ダッシュボード」の「看護必要度分析」に「適正化シミュレーション」が搭載された。これにより、データ精度向上にむけた取り組み後の成果を重症度、医療・看護必要度値として可視化できるようになった。
過小より「過剰」の評価が圧倒的
Hファイルのデータ精度の可視化は、医事データと紐づけることによって可能であることはこれまで何度も言及してきた(関連記事『「看護必要度分析」大幅リニューアル、C項目など新制度、データ修正やベンチマークに対応』『「看護必要度ショック」を乗り越える在院日数マネジメント、新制度の事例で学ぶ「見える化」からパス見直しまでの手順』)。
2つのデータの存在は、図表1のように説明することができる。医事データもなく看護必要度データもない第3象限は、医療行為そのものがないということで2つのデータが一致している。対極にある第1象限は、医療行為と看護必要度が一致している状況を示していて、いわゆる「あるべき姿」だ。
問題は、どちらかのデータがあり、どちらかのデータない、凸凹状態。青色の第4象限は、医事データはあるが看護必要度データがない状況で、必要度のチェック漏れが考えられる(過小評価)。一方の赤色の第2象限は、医事データはあるが看護必要度データがない状況で、評価者の勘違い等で過剰に算定している可能性や実際に診療行為はなされているものの点数の算定漏れの可能性がある(過剰評価)。GHCがこれまでに支援してきた100病院以上の看護必要度データ精度の分析結果では、過小評価よりも過剰評価の方が圧倒的に多いのだ。
Hファイル提出義務化の背景を理解せよ
図2は、約200万という大量データを用いたA項目における 看護必要度と医事データの乖離状況の分析結果だ。各項目左側の棒グラフはDPC(医事)データ、右側は看護必要度データを表している。
本来であれば、輸血・血液製剤のように、両グラフの高さは同じでなければならない。ところが、ほとんどの項目で看護必要度の棒グラフの方がかなり高い結果となっている。この「医事データよりも看護必要度データの評価日数の方が多い」事実を認識することが非常に重要だ。なぜなら、現在、自己申告ともいえる右側の看護必要度データが基になって100床あたり約1億円の7対1入院基本料が支払われているからだ。自己申告とも言える医療機関に対して、これまで検証する術をもたなかった厚生労働省が看護必要度の生データであるHファイルを手に入れることによって、どんなアクションを起こすか想像してみてほしい。
把握すべきは「最悪シナリオ」
過小評価を補正・適正化(看護必要度データを医事データに合わせて修正)することにより重症度割合はアップする。医療機関にとっては真っ先に実施したいアクションだ。
一方で、厚労省にとって過剰評価(必要度データはあるが医事データがない)への着目は医療機関を問い正す絶好の機会と言える。今回リリースした「適正化シミュレーション」の中で、図表3に、ある病院における看護必要度データの過剰・過小評価を適正化した場合(凸凹それぞれ適正化した場合)の重症度割合を左側に示した。この場合、重症度割合23.9%が2.3ポイント下がって21.6%になっている。また、過小評価のみを適正化した場合は3.4ポイントアップの27.3%。一方、厚労省の着目点でもあり、医療機関にとっては最悪シナリオとなる、過剰評価のみの適正化では、現状の23.9%から5.7ポイントダウンの18.2%となった。
最初のデータ提出は17年1月だ。それまでにデータ精度を把握するとともに、個々の症例に対する修正というアクション(図表4)を通じて確実な準備を進めたい。