貴院では、肺血栓塞栓症の予防対策を十分に行っているだろうか。本症の発生率は極めて低いと言われているが、もし発症した場合の死亡率は極めて高い。本稿では、肺血栓塞栓症予防管理料の算定状況をベンチマークし、周術期患者および手術を実施していない患者への予防対策を検証した。
データ期間:2018年7月以降の退院症例 838病院
対象:DPC対象病棟に入院していない症例を除外
肺血栓塞栓症の内科入院患者への予防対策の実施状況
複数の学会から招集された専門家による、肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドラインでは、「国内で周術期患者に対する予防対策は広まったものの、内科入院患者に対するリスク評価とそれに基づく予防対策は浸透していない」と指摘している。
ガイドライン遵守率を確認する方法の一つが、肺血栓塞栓症予防管理料の算定状況である。本当に周術期患者に対する予防対策は広まっているのか、内科入院患者への予防対策はどれくらい浸透していないのかを確認していく。
肺血栓塞栓症予防管理料は、図表1のように定義付けられている。算定のポイントは、ガイドラインに沿ったアセスメントが行われること、弾性ストッキング(状況に応じて弾性包帯)または間歇的空気圧迫装置が用いられていることだ(薬剤のみの予防では算定できない)。
肺血栓塞栓症予防管理料を算定している患者背景と算定状況
まず、肺血栓塞栓症予防管理料が算定されている患者背景(60歳以上/60歳未満、手術有/手術無で分類)を図表2に整理した。最も多く算定された条件は60歳以上で全身麻酔による手術を行ったケースである。手術を実施していないで本加算を算定しているケースは、11.9%だった。
初めに、周術期患者の算定状況を検証する。算定症例割合が最も高い60歳以上+全身麻酔による手術実施症例の中でも、ほぼ確実に同管理料の算定が行われるべき疾患領域である消化器系疾患(MDC=06)に絞り、ベンチマークを行った結果が図表3である。中央値は95.4%とほぼ全症例で算定されていることが分かる。一方で4分の1の病院が85%以下の算定状況だった。基本的に本条件においては、全症例が対象になるので、例外症例があったとしても算定率が90%以下の病院は、院内の算定フローを再考したい。
次に、60歳以上で手術を実施しなかったケースを検証する(図表4)。病院によって算定基準の考え方が異なるのか、5割を超える病院から、ほぼゼロの病院まで幅広い分布になった。
図表5では、前記同条件において算定施設と症例数が多い「160690:胸椎、腰椎以下骨折損傷(胸・腰髄損傷を含む。)」に絞ってベンチマークした。100%算定している病院は数病院存在するものの、全く算定していない病院が約4割も存在する。算定基準の考え方、対応の仕方が病院間で明確に分かれる結果になった。看護部門のみならずリハビリ部門等とも連携したアセスメントも有効だ。なお、巻末資料に病院ID別に、詳細な分析結果をまとめたので、ぜひ、参考にしてほしい。
まとめ
医療の質と経営の質向上に向け、肺血栓症塞栓症予防に向けて確認していただきたいことは、院内の算定基準である。どのようなケースに予防を行うのか、院内の誰もが分かるような明確なルールになっていることが望ましい。そのうえで、
〇予防を実施した症例は、確実に算定する
〇予防を行うか否かの確認を複数職種でチェックする
ことを徹底していただきたい。