診療情報提供料算定に当たって気を付けたい3つのポイント ~今日からできる質の高い地域連携~

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 日本は人口減少社会に入っており、今後、地域の病院間でいわゆる「患者の獲得競争」が厳しくなる。そうした中で、地域の診療所との円滑な医療連携が、病院の経営上最も重要な課題の一つであることは言うまでもない。

 円滑な医療連携を行う上で、キーになるのが「診療情報提供書」である。症状・診断・治療など、現在までの診療の総括と紹介目的を記載した診療情報提供書を確実に送付することで、医療の継続性を確保するとともに、地域の開業医や施設との関係が構築できる。それらを実践する上で重要な書類が、診療情報提供書である。

 診療情報提供書は、診療報酬上、「診療報酬提供料」として評価されている。診療報酬の点数配分も「診療情報提供料(I)」250点と大きい。これを着実に算定することは、紹介率や逆紹介率にも大きく影響してくるため非常に重要だ。

 今回の特集では、診療情報提供料にフォーカスを当てて、算定強化に向けたポイントを確認した上で、自病院の算定状況を可視化してみよう。貴院では算定が徹底できているだろうか。

診療情報提供書の要件を振り返る

 まず、診療情報提供料の診療報酬要件から確認する。

【図表1:診療情報提供料 診療報酬要件】
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 診療情報提供料は、別の保険医療機関での診療が必要な場合、患者の同意を得て、診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合に算定できる。紹介先保険医療機関ごとに患者1人につき月1回、250点の評価だ。また、送付先の対象は、保険医療機関だけではなく、介護老人保健施設や介護医療院も含まれる。

 さらに、退院後の治療計画、検査結果、画像診断に係る画像情報等、必要な情報を添付して紹介した場合は、「添付加算(退院時診療状況添付加算もしくは検査・画像情報提供加算)」として、診療情報提供料にさらに200点が加算される。医療連携では必要な診療データを添付することは必要不可欠であり、添付加算は漏らさず算定したい。

 診療情報提供料250点と退院時添付加算200点を合わせた450点は、病院経営上も重要であることは言うまでもないが、「必要な情報をしっかりと共有してくれる病院である」という地域での信頼を勝ち得るという意味でも、全件算定したい診療報酬である。

診療情報提供料算定に当たって気を付けたい3つのポイント

 この診療情報提供料の算定に当たってポイントになるのが、①「返書」と「診療情報提供書」の違いを押さえること、②老健への送付を忘れないこと、③データの添付を忘れないこと――の3点だ。

 ①「返書」と「診療情報提供書」の違いを押さえること

 紹介に対するお礼・報告としての文書は「返書」に該当し、診療情報提供書の算定対象に該当しない。
 実際には送付先で診療を行っているにも関わらず、「返書」として院内で取り扱われ、診療情報提供料が算定できていない事例が多くの病院で見られる。例えば、主傷病は貴院で継続して治療を行うものの、生活習慣病は地域の開業医に診療を依頼するケースは、「診療情報提供書」に該当し、診療情報提供料が算定可能である。

 院内で「返書」と「診療情報提供書」の判定を、いつ?誰が?どのように?行っているのか――。改めて院内のフローを確認していただきたい。

【図表2:診療情報提供書と返書 算定と内容の整合性】
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<分析条件>
データ期間:2018年4月~2019年2月退院症例
対象施設数:836病院
対象除外:診療情報提供料が算定できないDPC外病棟転棟症例、地域連携診療計画管理料算定症例


 図表3及び図表4は、上記分析条件下で診療情報提供料の算定状況を可視化したものである。

【図表3:診療情報提供料Ⅰ算定率ベンチマーク 退院先:他院の入院】
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【図表4:診療情報提供料Ⅰ算定率ベンチマーク 退院先:他院の外来】
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 本分析は、様式1の退院先情報と退院時の診療情報提供料算定情報を突合させているので、本来であれば、退院先が他院入院(転院)症例、他院外来の症例ともに、全件算定できるはずだ。このベンチマーク分析で算定率が低迷している施設は、様式1に入力されている退院情報データ精度や、院内の本算定に関する運用フローを確認していただきたい。

② 老健への送付を忘れないこと

 診療情報提供料の算定で気を付けたい2点目が、老健への診療情報提供書の送付及び診療情報提供料の算定である。前述のように、送付先対象は、保険医療機関だけでなく、介護老人保健施設や介護医療院も対象になる。高齢化が進展する中で、医療と介護の情報連携も地域包括ケアシステムにおいては重要な取り組みだ。

 図表5は様式1において退院先が介護老人保健施設となっている症例における診療情報提供料の算定状況のベンチマークである。算定状況をみると、算定率が5割を切っている施設も多い。老健が算定対象であることを院内に再周知し、老健に対してもしっかりと診療情報提供書を送付し、診療情報提供料を算定できる院内フローを構築していただきたい。

【図表5:診療情報提供料Ⅰ算定率ベンチマーク 退院先:介護老人保健施設】
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③ データ添付を忘れないこと

 診療情報提供料算定で最後に気を付けたいポイントが、退院時の添付加算である。

 医療連携では必要な診療データを添付することは必要不可欠である。診療報酬上は、こうしたデータ添付を退院時診療状況添付加算、検査・画像情報提供加算として評価している。

 図表6は診療情報提供書を算定した症例における退院時診療状況添付加算、もしくは検査・画像情報提供加算の算定状況のベンチマークである。こちらも本来は全件でデータ添付を行い、算定を行いたい加算だ。平均では87%の症例で算定ができているが、4割以下の算定状況の施設も一定数存在する。

【図表6:診療情報提供料Ⅰ算定者に占める退院時診療状況添付加算等の算定割合】
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 診療情報提供料の適切な算定は、算定率向上による収益増加だけではなく、地域の信頼を勝ち得るためにも重要である。巻末資料では、各施設の算定率と添付加算の算定を徹底した場合の増収ポテンシャルを掲載した。本号で掲載したポイントはいずれも全症例で算定を徹底したい項目であり、是非、自病院の算定状況を確認いただきたい。

解説を担当したコンサルタント 森本 陽介(森本・陽介)

snakamura 地域医療構想下の病院再編・統合に関する意思決定支援、統合後の臨床統合(クリニカルインテグレ―ション)支援が専門。単体病院にとどまらない、地域全体の病院・関係団体・住民を巻き込んだ支援を得意とする。多数の都道府県・医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナーや各種マーケティング施策の立案を担当。複数の新聞、雑誌の取材協力も行う。
解説を担当したコンサルタント 岩瀬 英一郎(いわせ・えいいちろう)

snakamura 病床戦略、財務分析、地域連携支援などを得意とし、全国の医療機関で複数の経営改善プロジェクトに従事する。入退院支援センター開設支援(PFM:Patient Flow Management)のプロジェクトではリーダーを務める。