在院日数短縮のインパクトを最大化、予定外に着目すれば「効率化係数」はもっと最適化できる

 平均在院日数の短縮は、DPC対象病院にとって重要な経営指標の一つである。収益に大きな影響を与えるほか、医療の質も向上させられる一方、平均在院日数の短縮に向けた経営努力は多大だ。貴院はこの経営努力によるインパクトを、最大限に経営へ反映させることはできているだろうか。それを確認する1つの手段は、効率化係数である。今回は、以下で効率化係数の最適化に向けた重要なステップを示す。特に重要な論点は、予定外入院の在院日数をいかに最適化するかだ。

効率性係数の概要と注意すべき3つのポイント

 効率性係数は、機能評価係数IIの一要素であり、在院日数短縮に対する評価を反映させた評価指標である。2016年診療報酬改定においては、効率性係数の上限は0.01588、下限は0.00000であった。仮に、DPC包括収益が30億円の病院であった場合、最大4700万円の収益インパクトが生じることとなる。

 このように収益インパクトも大きい効率性係数を最適化するためには、どのような注意点があるのだろうか。以下の3つのポイントは最低限押さえていただきたい。

(1)当該医療機関の患者構成が、全DPC/PDPS対象病院の平均患者構成に補正計算した場合の平均在院日数がベースになる(図表1)
(2)月あたり1症例以上の診断群分類のみが計算対象となる
(3)包括評価の対象となっている診断群分類のみが計算対象となる

 (1)については、自院の疾患構成が全国平均の疾患構成に置き換えられるため、他病院と疾患構成の異なる病院は特に注意が必要である。(3)に関しては、出来高算定(包括点数が設定されていない)のDPCコードや、短期滞在手術等基本料3の該当疾患が計算の対象にならない。

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適正化のキーポイントは予定外入院患者の在院日数

 全国平均の疾患構成に補正後の在院日数と効率性係数に相関関係があることは前述の通りである。では、効率性係数の最適化に向けて、在院日数の短縮を優先すべきは予定入院症例と予定外入院症例のいずれなのか。

 診断群分類別に、予定(100・101)と予定外(それ以外 記入のない症例は除く)の症例割合を算出し、症例割合が60%以上であった場合に「予定」と「予定外」に振り分け、補正後在院日数を算出した。図3、4を見てみよう。予定入院は在院日数の分布は5~11日に集約し、近似曲線は右下がりになっていることから、在院日数が長く、係数は低下する傾向がある。しかし、「補正後在院日数が短くとも、効率性係数が低い」という病院も多く存在していることから、予定入院における在院日数の短さは大前提であり、より大きな影響を及ぼしている要因は他にあることが推測される。

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 一方で、予定外入院症例に絞って傾向線をみると、R²=0.4574と高い相関があり、平均在院日数が短い施設では効率性係数が高い傾向がある。

 以上から、効率性係数の向上において「予定入院症例の在院日数コントロール」が大前提となり、更に高い効率性係数を獲得するためには「予定外入院症例の在院日数をいかに適正化するか」がカギとなってくることが分かる(図表2、3、4)。

 2016年度改定後に、インパクトの大きい疾患の顔ぶれはどのようなものになるか試算をした(図表5、6)。2016年度より、副傷病の分岐の増加、CCPマトリックスの一部導入により、診断群分類の数が大幅に増えた。CAG、PCIが上位2疾患を占める一方、それ以降は誤嚥性肺炎、大腿骨頚部骨折、尿路感染症、心不全等の予定外疾患が上位10位以内に確認される。そしてこれらの疾患群は、予定外入院症例の割合が高いことに注目いただきたい。

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「II群の効率性係数 > III群の効率性係数」の傾向

 2016年度には、II群病院の方が、III群病院と比較して、効率性係数が高い傾向が明らかになった。在院日数短縮は、II群病院である為の一要件である「診療密度」の改善のための切り札の一つであることからも、この結果は納得のいくものである(図表7)。

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在院日数の適正化に必要な3つの切り口

 在院日数コントロールのために必要な視点として、(1)パスの適正化(2)地域連携パスの活用(3)機能分化―の3点が挙げられる。

 1点目はパスの適正化だ。CAGを例に見てみよう(図表8)。効率性係数の高い病院の多いII群ではIII群と比較して、在院日数2日(当日入院→翌日退院)のパスが徹底されていることが分かる。

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 2つ目の視点である「地域連携パス」の対象疾患になり得る疾患においては、その有効活用も是非検討いただきたい。2016年度改定では、退院支援に係る充実した体制を評価する「退院支援加算1(一般病棟等では600点)」が創設され、改定前の退院調整加算に比べて大きく点数が引き上げられた。また、従来の地域連携診療計画管理料は、退院支援加算に対する加算となり、かつ、対象疾患が拡大された。上述の誤嚥性肺炎、尿路感染症、心不全等は高齢者に多く、特に、介護施設や慢性期医療機関からの搬送症例も多い。自院が急性期医療を中心に地域での役割を担うのであれば、地域連携パスの対象疾患拡大に向けた取り組みは必然となるであろう。

 地域連携パスを構築する医療介護機関が地域に存在しない場合などには、3つ目の視点である「院内における機能分化の適正化」も、結果として効率性係数の対策の一助となる。効率性係数は、「DPC算定病床における在院日数短縮」を評価するものであり、DPC外病棟への転棟後は係数評価対象外となる。

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 図表10はある病院における地域包括ケア病棟活用状況である。転棟症例の上位には、図表5、6で示した全国症例数の多い疾患の多くが該当していることが分かる。このように、ポストアキュート症例の転棟を適正に行っている病院では、やむを得ず長期入院になってしまう症例が存在しても、係数の適正化を達成することが可能だ。蛇足ではあるが、こうした医療機関では、一般病棟における重症度、医療・看護必要度の厳格化に対する対応も問題なく乗り越えられるだろう。

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あくまで「最適な医療提供体制か確認するための指標」

 本稿では、効率性係数の概要、注意点、インパクトの大きい疾患、適正化に向けた考え方を取り上げた。効率性係数の適正化は、自院の医療提供体制を適正化した結果として各病院に後から付いてくるものである。効率性係数の向上それ自体を目的とはせず、自病院の医療提供体制が最適であるかどうかを知るための一つの指標として活用することで、さらなる医療の質向上が推進されることに期待したい。

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解説を担当したコンサルタント 澤田 優香(さわだ・ゆうか)

sawada 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。看護師、保健師。
聖路加看護大学卒業後、集中治療室の勤務を経て、入社。看護必要度分析、看護業務量調査、DPC別診療科検討、病床戦略分析、マーケット分析などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うとともに、社内のアナリスト育成や看護関連プロジェクト(看護必要度勉強会など)などでも精力的に活動する(東京医科大学病院の事例紹介はこちら)。