1日単価決定因子 5つの要素で考える、入院収益最大化の論点

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 在院日数短縮が進む環境下、急性期病院の経営は入院医療の高回転・高単価が求められている。この両立は極めて難しいが、今回は入院医療の経営を左右する重要な要素である1日単価に着目し、5つの構成要素をそれぞれ分析した。自院の見える化を通じて今後の経営戦略立案等の参考にして欲しい。


病院収益の最大化を目指すためには?

 病院の収益は、おおよそ6~7割が入院収益であり、急性期病院は収益の最大化を目指すために入院収益に力を注いでいる。入院収益は、延在院日数×1日単価に因数分解できる。

 政策的に在院日数を短くせざるを得ない急性期病院は現在、症例数の獲得が大きな経営課題となっており、これまでも何度かメディ・ウオッチ・ジャーナルでも取り上げてきた。今回はもう一方の要素である1日単価に着目する。

1日単価を決定する要素は?

  DPC病院での1日単価は、図表1にて計算される。いわゆる、分子の最大化を目指すか、分母の最小化を目指すか、がポイントだ。

【図表1】1日単価の構造
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 今回の分析では、2018年4~9月の退院データを用いて、(1)係数、(2)手術、(3)ユニット(特定入院料)、(4)その他出来高算定(手術以外)、(5)平均在院日数――の5項目で最も相関が高くなる項目を検証した。

<分析条件>
分析期間:2018年4月~9月 分析病院数:813病院
分析対象:上記期間の退院症例
分析項目定義:各項目は以下のように定義した。
・入院収益:DPC日当点(係数加味)入院料、特定入院料、出来高算定金額、入院期間III超算定金額合計
・1日単価:入院収益をDPC対象在院日数で除した値
・医療機関別係数:2018年4~9月における施設別医療機関別係数の最大値
<相関分析評価>
相関係数をrとすると
| r | = 0.7~1   かなり強い相関がある
| r | = 0.4~0.7  やや相関あり
| r | = 0.2~0.4  弱い相関あり
| r | = 0~0.2   ほとんど相関なし

(1)係数

 係数は、DPCのすべての係数(基礎係数、機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱ)の合計値にて相関を検証した(図表2)。係数を0.01アップすることで1日単価が約980円上がる(傾き98313×0.01=983.13円)。2018年度診療報酬改定で暫定調整係数が廃止され、人員体制や急性期らしさが評価される係数対策は今後ますます重要だ。

【図表2】医療機関別係数と1日単価との相関
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(2)手術

 手術は、手術症例が10%増えると1日単価が約8700円、平均手術単価が10万円上がると1日単価が約5800円上がる。症例割合よりも手術単価のほうが強い相関を示していることを考えると、手術単価を上げる取り組みのほうが各施設のバラツキ少なく1日単価向上の可能性が示唆された(図表3、図表4 ※手術請求単価には手術手技料、材料費、薬剤費が含まれている)。

【図表3】手術症例割合と1日単価との相関
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【図表4】手術請求金額と1日単価との相関
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(3)ユニット(特定入院料)

 ユニットはER、HCU、ICU、SCUの入院料を算定した日がトータルの在院日数に占める割合と1日単価を検証した。ユニット日数割合が1%アップされると1日単価が約3000円上がる(図表5)。手厚い職員が配置されている病床でもあり高額な入院料でもあるので必要な症例に必要十分な期間、病床環境を提供する病床管理を改めて意識したい。

【図表5】ユニット入室日数割合と1日単価との相関
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(4)その他出来高項目(手術以外)


 手術以外の出来高項目は、例えばリハビリや各種管理料、指導料、加算をトータルで計算した。平均その他出来高金額を1万円アップすると1日単価は約1700円上がる。他の項目に比べると1日単価との相関は低いが(図表6)、医療の質向上の視点や各職種の生産性の向上という面では引き続きの取り組みが重要だ。

【図表6】手術以外の出来高算定金額と1日単価との相関
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(5)在院日数


 在院日数は、平均在院日数(図表7)と期間II超え割合(図表8)の2つの観点を検証した。平均在院日数が1日短縮されると1日単価は約2000円、期間Ⅱ超え割合が5%減少すると1日単価が約5000円上がる。日数の長短はケースミックスが要因になることが多く、平均在院日数は他の項目に比べると相関は低い。一方で、期間II超え割合と1日単価との相関は平均在院日数よりも強く、疾患毎の適正な在院日数マネジメントが重要であることが示唆された。

【図表7】平均在院日数と1日単価との相関
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【図表8】期間II超率と1日単価との相関
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まとめ


 1日単価に最も大きな影響を与えるのは手術項目、次いで俯瞰的取り組み成果である係数項目、入院期間Ⅱ超率であると検証された。

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 1日単価の最大化に向けて因数分解をした際に、自院の課題に落とし込み、どのように優先順位を付けてアクションを起こせばいいのか、今回の分析結果がその検討の一助になれば幸いである。今回、分析した各項目の医療機関別の詳細な数値は、巻末資料で確認してほしい。

解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

snakamura 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
早稲田大学社会科学部卒業。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。
解説を担当したコンサルタント 大田 友和(おおた・ともかず)

snakamura 株DPC分析全般、マーケット分析、病床戦略、看護必要度分析などを得意とし、全国の医療機関における複数の経営改善プロジェクトに従事する。医療ビッグデータを活用した外部機関と連携した共同研究プロジェクトを担当するほか、「病院ダッシュボードΧ」の設計なども行う。