10月より各病院から「病院指標」が公表される。この指標は、機能評価係数IIの保険医療係数の一つとして、今年度より新設された指標だ。厚生労働省から指定された指標は以下の7つになる。
(1)年齢階級別退院患者数
(2)診断群分類別患者数等(診療科別患者数上位3位まで)
(3)初発の5大癌のUICC病期分類別ならびに再発患者数
(4)成人市中肺炎の重症度別患者数等
(5)脳梗塞のICD10別患者数等
(6)診療科別主要手術別患者数等(診療科別患者数上位3位まで)
(7)その他(DIC、敗血症、その他の真菌症および手術・術後の合併症の発生率)
「病院ダッシュボード」では、昨年末に厚労省が提示した本指標のロジックに沿って、新制度機能の一つとして実装。今年度より、DPC俯瞰マップの中に「病院指標」として掲載場所を移した(図表1)。
病院ダッシュボードのコンセプトの一つは、自病院のデータのみではなく、他病院のデータと比較できるベンチマーク分析だ。「病院指標」でもこのコンセプトを踏襲し、病院ダッシュボードらしく、自病院のデータのみではなく、ベンチマーク分析の機能も加え、その両方に対応できるシステムとした。さらに、エクセルデータでの加工ができるよう、ダウンロード機能も備えている。(図表2)
今回のワンポイントレッスンでは、データ分析による実際の診療現場における改善活動を通じて、この指標の最適化を目指す手順の一つを取り上げたい。
図表3は、「成人市中肺炎の重症度別患者数等」である。肺炎は、症例数が非常に多い疾患で、診療コントロールが難しい感染症疾患という特性がある。一方、データ活用による初期ルールの徹底などで、ある程度のコントロールを実現している病院も多い。そのため、我々コンサルタントは、この疾病を病院のデータ活用に関する熟練度を見分ける一つの判断材料とすることが多い。過去のワンポイントレッスンや「病院ダッシュボード」のユーザー会でも、肺炎を有効な教材テーマとしてたびたび取り上げてきた。
具体的にはまず、肺炎治療において重要なポイントとなる抗生剤治療に関して、投与日数を検証してみたい。以下は同規模の2病院のデータ比較と、ベンチマーク分析の結果である。(図表4)
一見するとA病院の方がB病院よりも投与日数が長くなっている症例が多い。投与日数が長いほど、無駄なコストが費やされている可能性が高いと早合点しがちだが、その前に重要な着眼点がある。「7日間投与」である。
通常、初回オーダーで何日間処方をするかが決まり、一般的には3~5日の間で収まる。例えば、8日間投与であれば、「4日間投与×2回」で初回オーダー後に繰り返し処方されたと考えられる。そのため、しっかりと院内にパスが整備されているのであれば、3(3日間の処方1回)、4(4日間の処方1回)、5(5日間の処方1回)、6(3日間の処方2回)、8(4日間の処方2回)、10日(5日間の処方2回)の処方が多くなるはずである。初期の部分にパスがあり、それが徹底されているのであれば、7日目の症例が多くなることはありえないため、我々コンサルタントがまず7日目のデータに着目することを、社内で「7日間投与」と呼んでいる。弊社の経験上、おそらく「3日部分パス」が望ましく、また医学的にも現実的である。そのルールを守ると、あらゆる重症の患者であっても、7日投与はほとんどなくなる。
そこで改めて図表4を見てもらいたい。A病院は投与日数が長いように見えるが、6、8、10日の症例が多くプロットされている。一方、B病院は投与日数がA病院より短い印象はあるものの、7日の症例が最も多い部類にあり、パスがない、あるいはパスの徹底がされていない可能性が高い。必ずしも日数の長さを分析の軸にしてはならないことの好例と言えよう。
このように、病院ダッシュボードを用いてしっかりとデータ分析を重ねていくことで、経営の質および医療の質を改善、向上していくことができる。そのことは、病院指標の数値の最適化にも直結する。さらに、病院指標の数値最適化は、機能評価係数IIの数値改善にもつながり、経営的なインセンティブとなる。
10月から公表が始まる病院指標。この機会に改めて自院のDPC委員会でデータ分析による改善活動の必要性を取り上げ、「医療の価値(質/コスト)」のさらなる向上に取り組んでいただきたい。