2018年4月、看護必要度のデータ精度が試される 改善に向けた2つの勘違いと正しい3つの手順

DBχワンポイントレッスン用見出し

 グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)はこれまで、多くの病院で「重症度、医療・看護必要度」のデータ分析を行い、各病院の「データ精度の低さ」が問題であることに対して、警鐘を鳴らしてきた。2016年度診療報酬改定で看護必要度の生データとなる「Hファイル」の提出が義務化され、2018年度診療報酬改定では請求データで看護必要度データの報告を認める「看護必要度II」がスタートとする。2018年4月以降、今まで以上に看護必要度データの精度向上が試される環境になったと言える。

 そこで今回は、貴院で看護必要度のデータ精度について見つめ直し、改善していく方法をお伝えする。具体的には、改善に向けて陥りがちな2つの勘違いと、正しい改善を行うための3つステップを、まずはしっかりと押さえていただきたい。

最初から高い精度のデータを作るための分析が必要

 「看護部が中心になって頑張っているから、うちは大丈夫」「ベンダーがマスターを作っているからきっと問題ない」――。看護必要度のデータ精度について、このような理由から対岸の火事と思っている方は、少なくないのではないだろうか。しかし、このような感想を述べる病院のデータ分析を行い、衝撃的なデータ精度であった事例は、枚挙にいとまがない。

 2018年度診療報酬改定で、看護必要度データは2つの提出方法に分かれた。一つは、従来通り診療・看護記録に基づく「看護必要度Ⅰ」、そしてもう一つは請求データを通じて評価する「看護必要度II」である。看護必要度IIで届け出をする場合は、「Ⅰの基準をクリアしていること」「II-Ⅰの値が4%以下であること」が求められる。つまり、2018年度からはついに、厚労省が「データの精度」を診療報酬の中で評価することになったのだ。

 GHCが提供する分析ツール「病院ダッシュボードχ(カイ)」は、いずれの提出方法にも対応している。ここから具体的なデータ精度向上のためのステップをお伝えするが、その前に、2つ皆様にお伝えしておきたいことがある。

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 看護必要度は、患者ごとに毎日評価するものであり、そのデータ数は膨大だ。データ精度を向上するため、後からこの数のデータを分析・修正していると、人手がいくらあっても間に合わない。かつ、地道な作業のため、モチベーションを高く保つのも難しい。厚労省保険局医療課の迫井正深課長は、「現場の労働量軽減のためにも、看護必要度IIを導入した」と、GHC開催セミナーでも言及していた(関連記事は『鈴木医務技監・迫井医療課長がGHC改定セミナーに登壇!「重症患者受け入れ」に軸足を置いた入院報酬に!』)。「働き方改革」という視点から見ても、「後追い」として使うことは適していないだろう。是非、最初から「精度の高いデータを作るために」という視点に立ち、下記3ステップで使用してほしい。

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STEP1:俯瞰分析…全体をみてターゲットを選定する

 使用する機能は「A項目/C項目 一致率<俯瞰>」と「A項目/C項目 過剰評価率<俯瞰>」だ。今回は「Hファイルでチェックしていた日数(EFあり)÷EFファイルで請求があった日数」としての指標、「一致率」についてみていこう。

 一致率は高ければ高いほど良い。この分析画面では院内全体で、各項目について請求データと採点データを照らし合わせた際のデータ精度を、他病院と比較している。なお、各項目をより詳細にベンチマーク分析したいときは「ベンチマーク A項目/C項目 一致率」と「ベンチマーク A項目/C項目 過剰評価率」を参照いただきたい。

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 上記の病院では一致率がA7(専門処置)を除き軒並み低くなっている。では次はどうすればいいか?一致率が低いと言っても、全病棟でおしなべて低い状況は稀である。「A病棟は精度が高いが、B病棟は精度が低い」パターンが多い。次のSTEP2では、病棟別分析で改善が必要な病棟を探っていこう。

STEP2:病棟別分析…ターゲットの中でも優先順位をつける

 使用する機能は「A項目/C項目 一致率<俯瞰>」と「A項目/C項目 過剰評価率<俯瞰>」だ。この機能では各病棟別に一致率分析が出てくる。この分析画面で着目して欲しいのは「請求日数」と「一致率」だ。優先順位は「請求日数が多くて」「一致率が低い」病棟が最も高い。事例として、A6の「血液製剤」についてみていこう。

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※項目横の「昇順/降順(赤枠)」ボタンを押すと並び替えができる

 上記は他病院よりも一致率が低くなっている輸血・血液製剤の病棟別分析だが、請求日数が多いトップ3は6W、3E、4Eだ。そして一致率ワースト3は3E、5E、6Eだ。この病院にとって最優先は「3E病棟」であると言える。次いで5Eだろう。

 このように病棟別に一致状況は大きく異なる。ここで院内全体に「輸血・血液製剤のデータ精度を高くしてください!」といっても肝心の3Eは聞いていないかもしれないし、真面目にやっている6Wは憤慨するだろう。ここまで分析して初めて3Eをターゲットに絞ることができる。6Wの精度が高いことも分かったため、6Wのノウハウを3Eに共有してもいいだろう。

 ここまできたら、3Eのアクションプランを練るだけだ。STEP3に移っていきたい。

STEP3:薬剤別・行為別分析…アクションプランを立案する

 アクションプランとは、「行動レベルまで落とし込んだ分析の結果、言えること」である。病院ダッシュボードχの看護必要度機能では「A項目一致率<薬剤別>」「C項目一致率<行為別>」がその分析に該当する。3Eの輸血血液製剤の状況を知りたいので、今回は薬剤別分析をみていく。

 フィルターで病棟名を「3E」に、薬効分類を「輸血・血液製剤」に絞った状態で、検索を実行していただきたい。

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 検索の結果、3Eの薬剤別一致率状況がわかる。3Eでは照射赤血球液もやや一致率が低いが、特筆すべきは「アルブミン製剤」だろう。一致率が著しく低い。アルブミン製剤はその見た目から、特に新人看護師は「輸血の採点対象」と認識せず漏れてしまうパターンが多いのだ。

 ここまで分析できたらこの表をPDFにして、3E病棟の師長に渡してしまおう。アルブミネートに蛍光マーカーで線を引いてパウチにしてしまってもいい。3E病棟師長に「アルブミン製剤をしっかりつけて下さいね」と伝えたら、次は2~3か月後に値が変わっているかを確認していただきたい。変わっていればポジティブフィードバックをし、万が一、変わっていなければ、事務部門が病棟に対して勉強会を開いてもいいだろう。看護必要度のデータ精度改善で、一番大きく作用するのは「採点・請求担当者の知識と意識」である。現場の知識と意識を高めれば、データ精度はしっかりと上がってくる。

 看護必要度のデータ精度を高めるために、是非病院ダッシュボードχを活用していただきたい。

解説を担当したコンサルタント 澤田 優香(さわだ・ゆうか)

sawada 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのアソシエイトマネジャー。看護師、保健師。
聖路加看護大学卒業後、集中治療室の勤務を経て、入社。看護必要度分析、看護業務量調査、DPC別診療科検討、病床戦略分析、マーケット分析などを得意とする。自由分析ソフトを用いた分析では、社内で右に出るものはいない。多数の医療機関のコンサルティングを行うとともに、社内のアナリスト育成や看護関連プロジェクト(看護必要度勉強会や「看護必要度分析」開発など)でも精力的に活動する(東京医科大学病院の事例紹介はこちら)。