今月も引き続き、病院ダッシュボードの「マーケット分析」の活用方法について確認していく。今回は、アップデートされた2015年度のDPCマーケットデータ(退院患者調査結果)を用いて、市場動向とSWOT分析の進め方を見ていきたい。
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「2014年度診療報酬改定」はどんな改定だったか
さて、一緒に思い出していただきたい。2015年度とはどのような年だっただろうか。特に前々回の2014年度(平成26年度)診療報酬改定において、病院機能分化という考えが一気に広まり、多くの病院で短・中期的な将来ビジョンを検討し始めた段階ではないだろうか。
病院経営の専門コンサルタントとして全国各地の病院を分析していると、早いエリアでは2015年度の段階ですでに患者減少と同じタイミングでダウンサイジングなどの病院の機能分化が進んでいる。ダウンサイジングの結果、厚生労働省に届け出るDPC対象病床がかなり減少したことで、病床稼働率を維持しているところも見受けられる。
早速、自病院のエリアについて以下のような方法で、検証を行っていただきたい。今回は弊社がある東京都新宿区の二次医療圏である東京都区西部医療圏のデータを用いて、ここ5年(2011年から2015年)の変化を検証したい。
まず、病院ダッシュボード⇒マーケット⇒平均在院日数・症例数・病床利用率、からデータをエクセルでダウンロードする。一覧の中から、2011年度以降、継続してデータがある病院が今回の分析対象となる。追加で必要となる資料は、2011年度の各施設のDPC病床数が分かるデータである(病院ダッシュボード⇒マーケットの下に厚労省のホームページへのリンクがあるので、そこから「施設概要表」をダウンロードしていただきたい)。分析結果は以下(表1)のようになる。
東京都区西部医療圏では、以下の動向が見て取れる。
- 【DPC病床数】ほとんど減っていない。機能分化は(2015年度時点で)それほど進んでいない。
- 【症例数】入院患者はまだ8%ほど増えている。全国を見ると既に減っている医療圏も多くあるが、当エリアではまだ患者数は伸びている。
- 【在院日数】10%ほど短縮されている。改定の影響があるためか、元々12.8日と非常に短かったエリアではあるが、2015年度にはさらに短くなっている。
- 【延べ在院日数】症例数は増えているが、それ以上に在院日数が短縮したことにより、DPC病床数の稼働率は下がっている。いわゆる、急性期病床のニーズが約3%減少した。
- 【稼働率】あくまで保険対象患者だけではあるが(自費や労災、自賠責等を除く)、在院日数短縮による急性期ニーズの減少に、病床機能分化が追いついておらず、全体的な稼働が減少した。
結論としては、患者数は増えているものの、病床稼働を考えると、より増患が必要になり、患者を競い合っている形となっている。皆様の医療圏ではどうだろうか。マクロ的に自病院の外的環境を把握したうえで、自病院の立ち位置を確認する必要がある。
SWOT分析で確認すべき3つの視点
続いて、2015年度の自病院の患者状況を疾患領域別に検証する。病院ダッシュボード⇒マーケット⇒SWOT分析から状況を確認できる。
図1は、自医療圏の中の疾患領域別の獲得患者シェアを表している。まず、「基準シェア」を確認したい。これは、自病院がその二次医療圏内にて有しているベッドの割合を示している。それぞれの疾患が、基準シェアよりも右側(より多くのシェアを獲得している)にあれば“強み”の領域であり、左側は“弱み”となる。縦軸は自病院の退院症例数を表している。
自院内では症例数が多いが、十分に患者を獲得できていない場合(左上)を見ていこう。この場合、市場規模自体は大きい領域であり、競争激化が想定されるが、将来的にどうするのかを第一に検討していきたい。
次に、基準シェアの上もしくは若干右にある症例数の多い領域の検討である。この領域に属する病院では、現在は獲得ベッド分もしくは若干上のシェアを獲得しているが、少し油断すると危ない状況にある。短期的な対策を最優先で検討する必要がある。
最後に、症例数が少ない領域である。政策的に自病院で取り扱わなければならない場合が多いが、特にシェアが低い場合は、その領域の取捨選択も中長期的に検討する必要がある。
今回は、厚労省データを用いて大きな視点での検討を行った。厚労省からは年に1回しかマーケットデータ(退院患者調査結果)が公開されないので、毎月マーケットデータが変わるものではない。しかし、毎年公開されるたびに、自病院の短・中・長期戦略を考え、また見直し、疾患別にまで落とし込み、診療科単位で戦略を考えるためには、毎月のように活用すべき重要な機能である。2018年(平成30年)度の大改定に向けた今だからこそ、自病院の将来的な立ち位置をどうすべきかを検討するツールの一つとしてご活用いただきたい。
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