「コードを制する者、DPCを制す」、16年度診療報酬に備えよ、知らないと一症例30万円の収益格差、DPCコード重大変更点と対策

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 急性期病院が2016年度診療報酬改定でまず押さえるべきは、DPCコードの変更点を正確に理解することだ。「コードを制する者、DPCを制す」である。特に、副傷病名の記載の有無は重要だ。例えば、急性心筋梗塞で副傷病名の記載漏れがあると、一症例で30万円の収益格差が生じる。本稿では、新診療報酬におけるDPCコードの重大な変更点を整理し、最適なコーディングを実現するためのポイントを提示する。

2900コードから5000コードへ、コード数ほぼ倍増

 2016年度診療報酬改定で、DPC制度における各診断群分類の点数設計が大きく見直された。「脳梗塞」「糖尿病」「肺炎」の3疾患を対象に「CCPマトリックス」の評価が導入されたことに加え、定義副傷病名の増加でDPCコードがさらに細分化された。

 診断群分類の見直しの流れを振り返ると、10年前に600近くあった傷病名(MDC6 桁)は現状、2割近く整理されて500前後になっている(図表1)。一方、DPCコードは増加傾向にあり、来年度は「CCPマトリックス」が導入されることも影響して、前回の2873から4918コードへほぼ倍増した。

図表1 これまでの診断群分類の流れ

図表1 これまでの診断群分類の流れ

DPC制度は次ステージ「重症度分類」へ

 傷病名(MDC6桁)の年度変化をもう少し詳しく見てみよう。12年度(平成24年)から14年度(同26年)においては、516から504と12傷病名(MDC6桁)が整理されたが、16年度では以下の3点以外、ほとんど変更されなかった(図表2)。

図表2 14年度と16年度の傷病名(MDC6桁)変更点

図表2 14年度と16年度の傷病名(MDC6桁)変更点

  1. 「CCPマトリックス」の導入もあり、同一傷病名(MDC6桁)だった肺炎と気管支炎を区分。気管支炎は下気道感染症と一緒に評価
  2. 「CCPマトリックス」が導入された糖尿病も、抹消循環不全の有無でコードを細分化
  3. 小児疾患としての髄膜炎、脳炎脳症が、神経系疾患での感染・炎症コードに集約

 2003年にスタートしたDPC制度は、毎年のデータの蓄積と共に主要診断群を16分類から18分類に拡大し、傷病名(MDC6 桁)の増減を繰り返しながら、より実態に合わせて病名を分類してきた。今回で病名分類はおおよそ体系化され、重症度分類という次のステージに移ったといえよう。

「CCPマトリックス」は分岐項目を押さえる

 今回、コード数が倍増した大きな要因が「CCPマトリックス」の導入であることはすでに述べた。ここで重要なのは、コード数の多さに一喜一憂することなく、分岐項目をしっかり押さえることだ。以下では「CCPマトリックス」が導入された3疾患のうち、一番コード数が多い脳梗塞を取り上げる。

 今回、脳梗塞のコード数は1584分類になったが、押さえるべき分岐点は「発症時期がいつなのか」と「入院時の意識状態(JCS)」だ(図表3)。発症時期は3日以内と4日以降に分かれる。ほとんどの症例は3日以内の発症と思われ、入院時の意識状態はこれまでも分岐条件だったので、発症時期をしっかりと押さえることを周知徹底できれば問題ないはずだ。

図表3  CCPマトリックス脳梗塞コード(1,584分類)

図表3  CCPマトリックス脳梗塞コード(1,584分類)

 もう一つの大きな分岐項目が、発症前のRankin Scaleスコア(支払いには影響なし)である。入院時の病歴聴取は、退院調整を早期に計画する観点も含めて非常に重要だ。

副傷病名コード割合は27%から60%に

 適切な定義副傷病名の付与は、正確な医療情報を蓄積する意味においても、また適正な収益確保の意味からも非常に重要だ。

 14年度と16年度のコード数の詳細を比較すると、前述したように前回の2873から倍増の4918コードとなった。包括コードのみでカウントすると、2309コードから4244コードへ=図表4(6ページ)=。さらに、定義副傷病名の分岐ありコードは630コードから2538コードとなり、包括コードに対する副傷病分岐ありコードの割合は、14年度の27%に対して16年度は60%と分岐率が倍以上アップしている。

図表4 コード数比較

図表4 コード数比較

 定義副傷病名として、どのような疾患に注意が必要なのだろうか。一番多いのが肺炎関連であり、次いで誤嚥性肺炎、敗血症、腎臓または尿路感染症と続く(図表5)。共通しているのは、いずれも感染症であり、入院の主目的である治療の他に、感染症関連の治療を早期に把握することが大切である。様式1に入力されている入院後発症病名等のみの情報では時として不十分であり、医事課や診療情報管理部門が、日々飛んでくるレセプトデータから医師へ積極的に問い合わせをする必要がある。

図表5  定義副傷病名としての疾患名

図表5  定義副傷病名としての疾患名

 細菌培養・細菌同定検査、周術期抗生剤とは違う銘柄の抗生剤投与、胸部レントゲン実施などの感染症と思われる医療行為に対して敏感になろう。そもそも感染症を併発すると主疾病による入院が長期化しやすく、在院日数のマネジメントが困難になりやすい。術前から呼吸療法や栄養管理、口腔ケアを積極的に進め、感染症を発症させないことが一番である。不幸にも感染症が発症した場合は、医師のみならず看護師、MSW、退院調整関連職員、薬剤師、栄養士、リハビリメンバーと早期に情報を共有し、チームで動くことが重要だ。

感染症と思われる医療行為に敏感になろう

 ここで、副傷病名に関する事例を紹介する。

 急性心筋梗塞050030に付与されている定義副傷病名には、肺炎や誤嚥性肺炎が含まれる(図表6)。図表7は実際の急性心筋梗塞の症例だ。入院当日にステント留置術を実施し、当日からセファメジンを6日間、その後ゾシンを7日間投与。その間、細菌検査、頻回な胸部レントゲンが実施されている。一方で様式1における傷病名をみると、13日間の抗生剤投与の原因となるような感染症病名が見当たらない(図表8)。DPCコードは050030xx97510xで処理され、副傷病名が表記される13桁目が0になっていて副傷病名はなしというコードになっている。副傷病名の記載漏れ事例と見ていいだろう。

図表6 急性心筋梗塞050030に付与されている定義副傷病名

図表6 急性心筋梗塞050030に付与されている定義副傷病名

図表7 急性心筋梗塞50030xx97510x

図表7 急性心筋梗塞50030xx97510x

図表8 急性心筋梗塞50030xx97510x

図表8 急性心筋梗塞50030xx97510x

 では、副傷病名の記載の有無で、収益にどのくらいの差異が出てくるのかを見てみよう。16年度診療報酬改定後における在院日数33日の副傷病名なしでの点数を係数1として計算した場合、8万8560点(88万5600円)に対し、副傷病名ありでは11万9446点(119万4460円)となり、実に3万886点(30万8860円)の差異になる(図表9)。

図表9 副傷病名の付与で3万点の違い

図表9 副傷病名の付与で3万点の違い

問われる本質は「重症度に適切な医療行為か」

 今回は16年度診療報酬におけるDPCコードに対する変化を整理し、一部事例を検討した。各医療機関において症例の多いDPCコードの設計の見直し内容を詳しく理解し、在院日数のコントロールだけではなく、診療から退院調整のフローの見直しまで、院内組織を横断的に動かすに足る分析を実施する必要がある。分析にあたっては、今年2月末にリリースした新制度DPCシミュレーションツール「ぽんすけ2016」(※適宜アップデートあり)を是非活用してほしい。

 DPCコードが倍増している背景には、「各医療行為が患者の重症度(状態)に合わせて適切に行われているか」という至極当たり前のことが問われている。コード数に惑わされることなく、医療情報の重要性を院内で共有すると共に、多職種に対する運用フローの徹底も検討いただきたい。

解説を担当したコンサルタント

塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。