病床機能の最適化②~地域包括ケア病床~

leapJ_tokusyu

 消費税増税がいよいよ来月に迫ってきた。増税対応として本年10月に実施される診療報酬改定の内容も徐々に明らかになってきている。7月には基礎係数と機能評価係数IIが通知され、8月末にはDPCごとの電子点数表が示された。増税によりコストが上がる分、それを補填するために係数や電子点数表は一律プラスになるだろうと想定していた方々にとっては驚きの結果ではなかっただろうか。

 今後、医薬品や診療材料の償還価格等が示されることで、10月以降の増税による影響の全容が見えてくるが、既に大幅な減益を見込まざるを得ない病院も出てきているようだ。

 今号では、前号に引き続き、各病院における病床機能の運用状況を確認していく。前号では高度急性期機能を担う病床として「ICU・HCU」を取り扱った(関連記事はこちら)が、第2弾である今号のテーマは「地域包括ケア病床」だ。

 DPCデータをもとに他院とベンチマーク比較することで、現在保有している病床機能を最適に運用できているか確認していただきたい。病床管理の最適化を図ることで、限られた医療資源を最大限に活用し、消費税増税にも負けない経営基盤として医療の質と経営の質の向上を目指したい。

<分析条件>
データ期間:2018年8月~2019年7月退院症例
対象施設数:425病院(A308-3地域包括ケア病棟入院料を算定する病床を有する病院)
対象症例:A308-3地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)を算定する病床に入院した全ての症例
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症例数トップは白内障 ———地域包括ケア病床における対象疾患ランキング

 まずは、地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)を算定している病床(以下、単に「地域包括ケア病床」という)における疾患構成を確認する。図表1は、MDC6ごとに地域包括ケア病床における入院状況を一覧化したものだ。症例数ベースでのトップは「020110白内障、水晶体の疾患」、8番目にはポリペク「060100小腸大腸の良性疾患(良性腫瘍を含む。)」が入っている。いずれも直接入院率(図表1では「直入率」と表記)は高く、入院料1・3の実績評価要件「自宅等から入棟した患者割合が1割以上」を満たすために地域包括ケア病床へ入院させている病院も多いのではないだろうか。

 そもそも地域包括ケア病床の役割としては、ポストアキュート及びサブアキュートの患者を受け入れて在宅復帰を促すことが期待されている。令和元年度第5回入院医療等の調査・評価分科会(2019年7月25日開催)では、地域包括ケア病棟入院料に関して「入院料1・3の実績評価の要件等について、どのように考えるか」とされており、今後の議論の経過を注視したい。

 在棟日数ベースでは「股関節・大腿近位の骨折」が最多、次いで「160690胸椎、腰椎以下骨折損傷(胸・腰髄損傷を含む。)」「040080肺炎等」「040081誤嚥性肺炎」「050130心不全」の順になっている。

【図表1】 MDC6別 地域包括ケア病床における入院状況(症例数TOP20)
fig1-2

転棟タイミングは適切?① ———地域包括ケア病床への転棟タイミングベンチマーク

 病院ごとにさまざまな疾患を受け入れている地域包括ケア病床。一般病床からの転棟タイミングも病院ごとに大きく異なっている。図表2は、一般病床から地域包括ケア病床へ転棟した症例のみを対象に、転棟タイミング(入院何日目に転棟したか)をベンチマークした。平均値は22.5日であるが、早いところでは14日前後、遅いところでは40日程度の病院もある。転棟させる症例の疾患構成や病院全体としての病床稼働状況にも影響されるが、貴院の水準を改めて確認していただきたい。

【図表2】 地域包括ケア病床への転棟タイミングベンチマーク
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転棟タイミングは適切?② ———入院尺度で測る地域包括ケア病床への転棟タイミング

 地域包括ケア病床への転棟タイミングは、患者の状態やその後の治療内容に加え、診療報酬制度(DPCごとの日当点や入院期間)なども踏まえて、総合的に判断している病院がほとんどだろう。したがって、例えば入院期間IIが長く設定されている疾患を多く転棟させている病院は、他に比べて転棟タイミングも遅くなるため、単純な比較は難しい。
 そこで、今回はDPCごとの入院期間I~IIIを基準に算出した「入院尺度」という指標を用いて、疾患構成の違いによる影響を除外して転棟タイミングを評価してみたい(「入院尺度」の概要は図表3参照)。

【図表3】 入院尺度とは・・・?

fig3-2
 図表4には、全病院における地域包括ケア病床への転棟日を、入院尺度を用いて示した。入院尺度=2.0の部分にピークがあり、多くの症例において入院期間II終了日に転棟させていることが分かる。

【図表4】 入院尺度で見る地域包括ケア病床への転棟タイミング
fig4-2

入院尺度1.0(=入院期間I終了時点)での転棟も多い大腿骨頸部骨折

 図表5は、「股関節・大腿近位の骨折」における転棟タイミングを、入院尺度を用いて示した結果だ。やはり入院尺度2.0(=入院期間Ⅱ終了日)における転棟が最多ではあるが、入院尺度1.0(=入院期間I終了日)や入院尺度1.5における転棟も多い。地域包括ケア病床ではリハビリが包括になるとはいえ、股関節・大腿近位の骨折における入院期間IIの日当点は1,820点(160800xx01xxxxの場合、2019年8月時点)と低く、係数分を考慮しても地域包括ケア病床を選択する方が経営的には有利と捉えているのだろう。

【図表5】 入院尺度で見る地域包括ケア病床への転棟タイミング(160800 股関節・大腿近位の骨折)
fig5-2

内科系疾患では入院期間IIを超えてからの転棟が多い傾向

 図表6では、内科系疾患の代表として「心不全」における転棟タイミングを入院尺度で示した。やはり入院尺度2.0における転棟が最多であるが、前述の「股関節・大腿近位の骨折」に比べると入院尺度1.0~1.9の間に転棟した症例は少なく、逆に入院尺度2.0を超える症例が多くなっている。入院期間IIにおける日当点が「股関節・大腿近位の骨折」に比べれば高く設定されていることが一因だろう。また、内科系疾患は外科系に比べて症状が不安定な症例も多く、一般病棟側では「既に急性期を脱している」と判断された症例であっても、地域包括ケア病床での受け入れには慎重になっていることも考えられる。これには、地域包括ケア病床における人員体制も影響しているだろう。

【図表6】 入院尺度で見る地域包括ケア病床への転棟タイミング(050130 心不全)
fig6-2

適切な病床管理によって限られた医療資源を最大限に活用する——

 本号では、地域包括ケア病床の運用状況について特に転棟タイミングという視点で可視化した。日本全体としては急性期機能の病床が過剰である一方で、回復期機能の病床が不足している、という地域が多い。そのような中で、地域包括ケア病床への転棟タイミングを適切にマネジメントすることは、単に病院経営としての有用性だけでなく、地域において限られた回復期機能の病床をより有効に活用するという点においても重要な取り組みといえる。
巻末に各病院の情報を掲載した。今回ご覧いただいた分析結果を踏まえて、限られた医療資源を有効活用するための病床管理のあり方を見直すきっかけになれば幸いである。

解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

snakamura 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
早稲田大学社会科学部卒業。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。
解説を担当したコンサルタント 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう)

snakamura 東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の医療機関における複数の改善プロジェクトに従事。入退院サポートセンター開設支援、病院再編・統合、病院職員の生産性向上など社内の新規事業プロジェクトを担当する。