定期的なパスの見直しをしていますか? ~胃の悪性腫瘍:ESDのケース分析~

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 日常の診療で使用されているクリニカルパス(以下、パス)。パスのメリットは、医療の標準化・効率化の推進、安心安全な医療に対する患者満足度向上等があげられる。全国的な在院日数の短縮を受けて、定期的に見直している病院もある一方で、何年も同様のパスを使用している病院も存在するのではないだろうか。

 本号では、胃の悪性腫瘍の内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Sudmucosal Dissection:以下ESD)を取り上げ、在院日数の全国的な傾向を示すとともに、各医療機関の医療資源の使い方について言及する。

全国的に症例数が多い予定入院疾患

 全国的に症例数が多い疾患のパスを見直す意義はいくつかある(図表1)。例えば係数対策であれば、DPC特定病院の基準の一つである診療密度や、機能評価係数IIの効率性係数は全国的に症例数が多いコードに対しての在院日数短縮が有用だ。

【図表1:全国的に症例数が多い予定入院が多い疾患一覧】
MWJ201907_fig1
(弊社調べ(848病院):データ期間18年4月~19年3月)

 予定入院という括りの中では、「胃の悪性腫瘍 内視鏡的胃、十二指腸ポリープ・粘膜切除術 手術・処置等2なし(DPCコード:060020xx04x0xx)」は全国TOP10に入る症例数と推計できる。このコードは、2018年度の診療報酬改定の際に、期間I、期間IIの在院日数が短縮され、特に期間IIについては、1日短縮されたこともあり、パスの見直しをした病院も多いのではないだろうか(図表2)。

【図表2:胃の悪性腫瘍ESDの制度設計】
MWJ201907_fig2
<分析条件>
データ期間:2018年4月~2019年3月退院症例
分析コード:060020xx04x0xx
胃の悪性腫瘍 内視鏡的胃、十二指腸ポリープ・粘膜切除術 手術・処置等2なし
対象施設数:702病院
対象:予定入院症例(様式1の予定・緊急区分の「100」の症例)



在院日数の傾向

 在院日数分布で症例が最も多い日数は8日であり、18年度制度における期間IIと一致した。各医療機関ともに、制度変更に対応している状況が伺われる。一方で、9日以降の症例も一定数存在しているので、パス適用であれば、今回を機に8日への見直しを検討して頂きたい。

【図表3:在院日数の傾向】
MWJ201907_fig3

医療資源の使い方

①術前の検査・画像の外来化

 DPC制度における医療資源(投薬・注射・処置(1,000点以下)・検査・画像)の投入は、病院の持ち出しとなり、診療報酬として請求することはできない。そのため、外来でできる検査や画像は、できる限り入院前の外来で実施することや、ガイドラインや論文と照らし合わせて、投与日数の見直し等をすることが望ましい。

 図表4と図表5は、術前(入院してから手術する前日まで)における感染症検査(肝炎、梅毒)や画像の実施状況を示している。

 感染症検査は、手術をするのであれば職員の安全性を確保するためにも必須であり、予定入院の患者であれば外来で実施したい。また、一般撮影等の画像検査も、外来で実施することで、診療報酬上請求可能であるため、病院経営上入院ではなく外来での実施が望ましい。近年は、PFM(Patient Flow Management)という概念のもと、入退院支援センターなどを整備し、外来と入院が一体となった診療提供体制を構築している医療機関が増えた。貴院の実施状況はどのような状況だろうか。

【図表4:術前の感染症検査の状況 1症例平均金額ベンチマーク】
MWJ201907_fig4
【図表5:術前の画像検査の状況 1症例平均金額ベンチマーク】
MWJ201907_fig5

②PPI投与日数の適正化

 PPI(プロトンポンプ阻害薬)もDPC制度下では包括範囲となり、病院の持ち出しとなる。診療の際に必要な治療は当然、実施されなければならないが、図表6のように各医療機関の平均投与日数のバラツキは大きい。今一度、内服薬に切り替えることはできないか、注射薬としての投与日数の必要性を確認してほしい。

【図表6:術日以降のPPI(注射請求)の投与状況】
MWJ201907_fig6

③輸液終了と食事開始タイミング

 輸液は、手術後に食事がとれない場合にはどうしても必要になる補水液であり、投与日数は術後回復により当然個人差がでる。しかし、パス適用症例の中で、食事が摂取できているにもかかわらず輸液が継続的に投与されているケースが散見される。これは、患者のQOLを妨げるという点、病棟業務として不必要な輸液管理をしなければならないとう点、そして輸液も病院の持ち出しである点から、食事開始と輸液投与の関連性については留意が必要だ。

 図表7は、各病院で輸液を投与している症例が、いつ食事を開始したかを示している。プラスになっている医療機関は、食事が開始されても輸液が投与し続けている施設である。経口摂取は、患者の回復を早め、医療の質的向上にも貢献することから、院内で切り替えタイミングについて検討して頂きたい。

【図表7:輸液終了と食事開始タイミングの状況】
MWJ201907_fig7

 今回は、胃の悪性腫瘍の中でESDの分析を行った。各医療機関と比較することで、日常行われている診療行為を見直す機会になるのではないだろうか。巻末に各病院情報を掲載している。医療の標準化・効率化推進に向かってパスの意義を多職種で共有し、カイゼンに結び付けていただきたい。

解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

snakamura テンプル大学教養学部経済学科卒業。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。全国の医療機関のコンサルティングを務め、改善事例多数。コンサルティング部門のチームリーダーのほか、若手の育成や人事担当なども務める。「LEAP JOURNAL」担当責任者。
解説を担当したコンサルタント 岩瀬 英一郎(いわせ・えいいちろう)

snakamura 病床戦略、財務分析、地域連携支援などを得意とし、全国の医療機関で複数の経営改善プロジェクトに従事する。入退院支援センター開設支援(PFM:Patient Flow Management)のプロジェクトではリーダーを務める。