診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬の3つの報酬改定が行われる2018年度の「トリプル改定」。前回のメディ・ウォッチ・ジャーナルでは、診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会のこれまでの議論を振り返り、急性期病院なら絶対に押さえておきたい「急性期入院医療(7対1・10対1)の見直し」、「退院支援・在宅復帰の強化」、「地域包括ケア病棟の機能分化」の3つの論点に絞って確認した。
今回は、それ以外の論点で確認したい「高度急性期ユニット」「回復期リハビリテーション」「介護医療院の創設」について見ていく。
救命救急1・3、SCUでの看護必要度の測定を(高度急性期ユニットの見直し1)
高度急性期医療を提供する特定集中治療室(ICU)やハイケアユニット(HCU)などにおいては、医師や看護師などの医療資源が限られ、報酬も高額に設定されているため、「より適切な患者」、つまり「重症患者の入室」が求められる。このため、各ユニットの特性に応じた「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の評価票が作成され、この基準に該当する患者(重症患者)が一定割合以上でなければ高額な特定入院料を届け出ることができない。例えばICUでは重症患者割合が8割(または7割)以上という施設基準が設定されている。
しかし、救命救急入院料の1と3、SCU(脳卒中ケアユニット)では、看護必要度の測定が義務付けられておらず、当然、重症患者割合の施設基準も設定されていない。このためもあってか、救命救急入院料1・3とSCUでは、救命救急2・4、ICU、HUCなどに比べて「重症度患者割合が低い」ことが分かっている。
ただし、救命救急入院料1・3やSCUの7割程度では看護必要度測定が任意で行われており、厚労省は、こうした状況を総合的に踏まえて「まず看護必要度の測定を義務化(要件化)してはどうか」と提案している。例えば、▼救命救急入院料1・3ではICU用▼SCUではHCU用—の重症度、医療・看護必要度評価票に基づいた、患者状態の毎日の測定が考えられるが、厚労省は「影響が大きくならないよう」配慮する考えで、具体的にどの評価票が導入されるかは、今後の検討を待つ必要がある。
また2018年度には導入されないが、近い将来「重症患者割合」の基準も設けられる可能性がある点にも留意が必要だ。
ICUなど、専門研修受けた看護師配置を義務化へ(高度急性期ユニットの見直し2)
厚労省はこのほか、▼ICUではDPCデータの中に「入室時の患者の生理学的スコア」(SOFA:Sequential Organ Failure Assessmentスコア)の記載を求める▼安全性を確保した上で、ICU入室早期からの「離床に向けた取り組み」を評価する▼ICUにおいて、「重症患者に対するケア」に関する研修を受けた看護師配置を義務化(要件化)する▼ICUやHCUなどの設備・器具について、柔軟に保有できる(共有化できる)よう要件を見直す—考えも示している。
また専門研修を受けた看護師配置の義務化(要件化)については、すでに9割のICU設置病院で配置実績があることを踏まえたものだが、中医協では、診療側委員から「十分な準備期間を設定してほしい」との要望が出ている。専門研修には受講枠が設定されており(誰でもが任意の時期に専門研修を受けられるわけではない)、また研修受講期間中の代替要員確保にも一定の困難が伴うためである。
アウトカム評価で在院日数短縮などの効果あり(回復期リハ病棟のアウトカム評価を推進1)
2016年度の前回診療報酬改定で、回復期リハビリ病棟にアウトカム評価が導入され、「実績の伴わない病棟」では疾患別リハビリ料の算定が6単位までに制限され(通常は9単位算定可能)、事実上、【リハビリテーション充実加算】の算定も不可能となっている。
どのように実績を評価するかは複雑だが、▼リハビリを1日平均6単位以上提供している▼3か月ごとに「直近6か月のFIM得点をベースにしたADL改善度合い」の実績(実績指数)を計算し、2回連続して27以下―の双方を満たす場合に「実績が伴わない」として、疾患別リハビリ料の算定制限などが行われる。2016年度改定論議の中で、一部に「効果の上がらないリハビリを頻繁に、漫然と提供している」回復期リハビリ病棟があることが分かったことから導入されたものだ。
厚生労働省で、このアウトカム評価導入後の状況を調査・分析したところ、▼平均在院日数の短縮▼在宅復帰率の向上▼重症者の積極的な受け入れ―といった成果が上がっていることが10月25日の中医協総会に報告された。診療報酬改定が「医療の質向上」にダイレクトに寄与した好事例の1つと言える。
一方、▼アウトカム評価の対象にならない病棟の中には、「実績指数が27を下回る」ところも散見される(効果の低いリハビリ提供が行われている可能性がある)▼手厚いリハビリを提供する回復期リハビリ病棟1では実績指数27クリアが8割近い(リハビリ効果が高い)が、回復期リハビリ病棟2や3ではクリアの割合が低い(リハビリ効果が引く可能性がある)―という課題もある。
ここから、アウトカム評価の対象を「リハビリ提供量がより少ない回復期リハビリ病棟」にも拡大することが考えられる。しかし、診療側委員は「一定の成果が上がっており、現状を維持すべき」と主張しており、拡大方向は本稿執筆段階では固まっているとは言えない状況だ。
またアウトカム評価の基準値と言える「実績指数27」をどう考えるかという論点も浮上。中医協の支払側委員は、「実績指数の基準値27が低いのではないかと感じている」と述べ、厳格化を検討すべきと要望している。こちらも診療側委員は「現状維持」を求めており、本稿執筆時点では明確な方向は見えていない。
もっとも将来的には「アウトカム評価の厳格化」が進むと見られ、すべての回復期リハビリ病棟で「効果」も考慮したリハビリを提供することが期待される。なおアウトカム評価導入に当たっては「クリームスキミング」(ADL改善効果の出やすい患者を選別して受け入れ、改善効果の出にくい患者などを敬遠する)が懸念されるが、厚労省は▼回復期リハビリ病棟への在棟期間が長くても、ADLは改善する▼疾患などの患者に状態によって一定のバラつきがあるものの、重複も相当程度ある▼実績指数と年齢・入棟時FIM(運動項目)との間に相関はない—ことが明らかになっている。つまり「在棟期間の長い患者でもADL改善効果があるので、「ADL改善効果の出にくい疾患・状態はなく、受け入れ拒否をする必要はない」「高齢者や入棟時にADLの低い患者であっても、リハビリによりADLは改善され、受け入れを拒否する必要はない」ことが分かっている。
回復期リハ病棟から退棟した患者にも十分なリハ提供を(回復期リハ病棟のアウトカム評価を推進2)
また回復期リハビリ病棟に関しては、(1)リハビリ効果は、患者の栄養状態の影響を大きく受けるため、「管理栄養士配置」を充実させる(加算などの設定)(2)退棟後のリハビリ継続を充実させるための見直しを行う—ことも重要論点として浮上している。
このうち(2)は、▼回復期リハビリ病棟に長期間入院すると、「発症から計算するリハビリ算定日数の上限」に到達して(あるいは到達に近くなって)しまい、退棟後のリハビリ提供について十分な診療報酬を算定できなくなっている▼多くの回復期リハビリ病棟では、リハビリ専門職種が「専従」で配置されており、病棟外での業務が困難である—という課題に着目したもので、厚労省は▼回復期リハビリ病棟退院後、早期の患者について疾患別リハビリ料の標準的算定日数上限の対象外とする▼回復期リハビリ病棟のリハビリ専門職専従の取扱いを見直し、退院後リハビリの提供しやすい環境を整える—ことを提案している。
例えば、加配されている専従のリハ専門職が病棟外業務(退院後患者へのリハビリ提供など)に一定程度携われれば、相当の効果が出ると期待される。この提案に中医協委員からは異論を唱えておらず、2018年度改定での見直しが濃厚だ。
介護医療院、I型は機能強化型、II型は老健施設ならびで評価(介護医療院の創設1)
介護保険制度についても確認しておきたい。介護保険3施設のうち、介護療養病床(介護療養型医療施設)は、病院・診療所の病床であるため、「長期間の療養生活にそもそもふさわしくないのではないか」「医療療養病床との役割分担を明確にすべきではないか」との指摘がかねてからあり、廃止が決まっている。
ただし単なる「廃止」(つまり閉鎖)では、入所者が行き場を失ってしまうため、「介護老人保健施設」などへの転換が進められてきたが、「そもそも入所者像が異なる」ことから転換がうまく進まず、「新たな転換先」が求められ、厚労省は▼医療▼介護▼住まい—の3機能を併せ持つ、新たな介護保険施設(=介護医療院)の新設を決定している。
介護医療院には、介護療養病床だけでなく、看護配置が薄い医療療養病床(病院全体で「看護配置4対1以上」などの基準を満たせない)の一部も転換すると想定されている。11月22日の介護給付費分科会で厚労省は、▼介護医療院の基準と報酬▼介護療養病床の基本報酬▼転換老健の基本報酬と療養体制維持特別加算―について、それぞれ具体案を示した。
まず介護医療院の基準・報酬については、「I型」と「II型」の2区分に分けて提案。「I型」は、介護療養病床の【療養機能強化型】のように、医療ニーズに対応可能な人員や設備を備え、医療処置が必要な人や重篤な身体疾患を持つ人を積極的に受け入れるサービス、「II型」の人員体制は「I型」ほど充実の必要はなく、状態が比較的安定した患者の入所が想定されている。
具体的には、「I型」の人員基準では「48対1以上(施設で3人以上)」と介護療養病床並みの医師を配置し、看護職員(指定基準は「6対1以上」)のうち2割以上は看護師が必要である。また介護職員も原則「4対1以上」で、介護療養病床と同じ。医師の宿直が必要だが、「併設する医療機関の宿直医師が兼任できる」こととなる見込みだ。
一方「II型」の人員基準は老健施設並みで、医師数は「100対1以上(施設で1人以上)」です。看護職員は「6対1以上」、介護職員は通常「6対1以上」となり、医師の宿直は不要となる。
厚労省は、「I型」の医師の宿直以外においても、「医療機関と併設する場合には、医療資源を有効活用する観点から人員基準の緩和や設備の共用を可能とする」としているが、介護給付費分科会で、日本看護協会副会長の齋藤訓子委員からは「労働衛生上も、利用者の安全の観点からも、人員が手薄な夜間帯などに看護職員や介護職員が『兼務』するのは、あってはならない」との指摘が出ている。
一方、施設・構造の基準については、「I型」「II型」の双方とも、介護療養病床や老健施設よりも充実させる具体案が示された。例えば、「1人当たり8.0平米以上の居室」(介護療養病床の基準は「1人当たり6.4平米以上」)や、「十分な広さのレクリエーションルームの設置」(介護療養病床には不要)などである。療養室を個室にする必要はないが、利用者のプライバシーに配慮しなければならず、例えばパーテーションによる間仕切りなどが考えられる。利用者1人当たりの床面積は、4人部屋を2人部屋にしたり、改修しなければ拡張できないが、大規模改修までの間は基準緩和措置が行われる見込みである。
なお、介護医療院の指定は「療養棟単位」が原則だが、療養病棟が2病棟しかない医療機関などには、介護療養病床と同様に「療養室単位」での運営が認められる見込みである。
基本報酬についても「I型」は介護療養病床の【療養機能強化型】、「II型」は転換老健を参考にする考え方を厚労省は示している。その上で、(1)「I型」「II型」に求められる機能を踏まえ、それぞれに設定される基準に応じた評価を行う(2)一定の医療処置や重度者要件等を設け、メリハリの利いた評価とする(3)介護療養病床と比べて療養室の環境が充実していることも評価する―方針だ。
療養環境充実の評価は、介護療養病床と比べて1人当たり床面積を広げたり、レクリエーションルームを設けたりさせ、施設サイドに相応のコストが掛かる(あるいは収益が減少する)ためである。ただし、1人当たり床面積が6.4平米のまま、経過措置を使って介護医療院になるケースについては、一部委員から「緩和中は、環境が充実しているとは言えない」と指摘し、基本報酬を減算するべきとの指摘も出ている。
また、「I型」の参考となる介護療養病床の【療養機能強化型】には、医療処置や重度者の要件が設けられ、重度者等の割合に応じて「療養機能強化型A」「療養機能強化型B」の2段階で評価されている(「療養機能強化型A」の方が、ハードルが高く単位数が高い)。「I型」の基本報酬も、「I型A」「I型B」のように数段階で要件と単位数が設定される可能性が高い。
介護医療院の評価を手厚く、介護療養の評価を下げ、転換を促進(介護医療院の創設2)
介護医療院の加算について厚労省は、介護療養病床と同様に設けてはどうかと提案している。さらに、利用者の緊急時に、医療施設として対応することを老健施設の【緊急時施設療養費】(緊急的な治療・管理として入所者に投薬などを行うと511単位を算定)と同様に評価する案も浮上している。なお、介護医療院に転換した日から1年間だけ算定できる加算を、2021年3月末までの期限付きで設ける方針も示された。
この加算をつくる理由を厚労省は、「療養病床などからの転換前後、サービスの変更内容を利用者・家族に説明したりする手間がかかるため」と説明しているが、事実上の「転換に対するインセンティブ」と言えるだろう。この点、日本医師会常任理事の鈴木邦彦委員は「魅力的な選択肢の1つだ」と評価しているが、費用負担者である健康保険組合連合会理事の本多伸行委員は「介護報酬以外で対応すべき」と反対している。
一方、転換促進のためには「介護療養病床の基本報酬を下げる」方法も考えられ、厚労省は単なる引き下げではなく「医療処置または重度者の割合」に応じてメリハリを利かせる案を示している。介護医療院に転換すれば報酬アップとなり、介護療養にとどまれば報酬ダウンとなる、という2重の転換促進策が設けられる見込みである。
また居宅サービスのうち、▼短期入所療養介護▼通所リハビリテーション▼訪問リハビリテーション▼訪問看護―は、介護医療院でも提供できる仕組みにするようだ。