2018年度診療報酬改定に向けた議論が中医協で本格化しつつある。第342回(平成28年12月21日)で示された「平成30年度診療報酬改定に向けた検討項目」及び、その後の議論を踏まえる限り、次回の改定でも、「病床機能分化の推進」が大きなテーマとなる見込みである。
病床機能分化のポイントの1つは「高度急性期」に該当するケアユニットの適正化である。2014年度、2016 年度の診療報酬改定で、特定集中治療室(以下「ICU」)、ハイケアユニット(以下「HCU」)の「重症患者の受け入れ割合」のカウント方法の見直しが行われてきたが、現在、入院医療等の調査・評価分科会(平成29年4月27日)では前回改定の影響を調査しており、結果いかんによっては次期改定での見直しに向けた検討が始まる可能性もある(図表1)。
各ケアユニットは診療報酬上、高額な点数が設定されている一方、配置すべき人員も多いことから、多くの施設で、その保有の在り方、入室基準、病床管理が経営上の問題となっている。こうした経営課題を考える上で、「ケアユニットに該当すべき疾患構成」と「適切な病床管理」の2点がポイントになることは言うまでもない。
次期診療報酬改定を前に、各施設の運用実態についてDPCデータを用いて可視化し、ケアユニットに相応しい疾患構成と病床管理について考察してみよう。
◎ 分析データ
● DPC データ
● 2016 年10 月~12 月退院症例
● 上記期間に「特定集中治療室管理料」「ハイケアユニット入院医療管理料」「救命
救急入院料(以下「ER」)」「脳卒中ケアユニット入院医療管理料(以下
「SCU」)」のいずれかを算定している359 病院(分析・執筆時点でデータ提出が
あった施設に限る)
● 15 歳未満症例は分析対象外
ケアユニットの届け出状況
まず、各施設におけるケアユニットの届け出状況を明らかにしたい。
図表2・3は各施設における算定項目の内訳を示したものである。ICU・HUCを個別に保有している施設が全体の4割を占め、ついで、「ICU・HUCを共に保有している施設」「ER・ICUを共に保有している施設」が続く形である。
図表3では、ケアユニットを単独で保有している施設をピンク、複数機能を保有している施設を水色で示したが、全体の約4割が複数のケアユニットを保有していることが明らかになった。ケアユニットの組み合わせとしては、ICUと他の機能を組み合わせている施設が大半であった。
ICUを単独で保有している施設の割合からも、ケアユニットの選択の基本としてICUが位置付けられていることが確認できる。
ケアユニットの入室患者のベットコントロールについて
次に、ケアユニットにおける患者のベットコントロールの状況を可視化してみよう。救命救急入院料は一度他病棟に入室した患者は、算定ができないことから、原則、入院初日からERに入室した患者のみが対象とされる。
一方、「特定集中治療室管理料」「ハイケアユニット入院医療管理料」は大手術後も算定対象になっており、予定入院症例の術後リカバリーのためにも使用することができる。図表4はICU・HCU入室症例の入院目的別の割合を示したものであるが、ICUでは半数近くの症例が予定入院に使用されていることが確認できる。
図表5・6 は予定入院、予定外・緊急入院別に各ケアユニットの入室経過を示したものである。
まず、予定入院では、全体の約6割近い症例が「ICUのみ単独で利用」している。ICU退室後、HCUに入室する症例を個別に確認したところ、一部の長期症例のみに限られていた。
一方、予定外・緊急入院では、ICU・HCU・ERを単独のみ利用する症例が大半であるが、「ER入室後、ICU・HCUに入室する症例」、「ICU退室後、HCUに入室する症例」も一定数存在する。前者はERにてトリアージを実施し、術後のリカバリーはICU・HCUで実施している症例である。
ER・ICU・HCUの算定要件は、DPC様式1における入院目的の記載と相関している(図表7)。そこで、様式1の記載を用いて、算定要件ごとに入室経路を可視化した分析が図表8である。
まず、「200(予定外)」「301(意識障害)」「310(その他)」で入院目的が評価された症例はケアユニットに入室していない症例が多い。一般的に、症例の重症度は「200」<「310」<「301~309」の順で評価されており、軽症症例はケアユニットの算定が厳しい状況が確認できる。
「301(意識障害)」におけるケアユニットへの入室状況は入院時のJCS(ジャパン・コマ・スケール)の評価と関係があるようだ。図表9はDPC様式1における入院時JCSとケアユニット(ER・ICU・HCU・SCU)の未算定割合を比較したものであるが、JCSII群まではケアユニット入室症例は少ないことが確認できる。
※自発性喪失等(R、I、A)が記載されている症例の場合、それぞれのJCS レベルにまとめて記載。
次に、「304(薬物中毒)」「305(ショック)」「307(広範囲熱傷)」はICU・HCUの入室割合が低く、ER中心の入室であることが確認できる。薬物中毒やショックは救急搬送時の状況は重度であっても、その後の侵襲は低いことが多いことから、ICU・HCUよりもERでの診療を行っている施設が多いようだ。
本号の最後に各施設の算定状況を入院区分別にまとめた資料を付している。是非、他病院の運用状況と比較頂き、ケアユニットのベットコントロールを再考するきっかけと頂きたい(図表11)。
ケアユニットの在室日数について
続いて、ケアユニットにおけるベットコントロールで問題になるのが、ケアユニットの在室日数である。
図表10はICU・HCUごとの在院日数を示したものであるが、いずでも1日~2日程度の在室症例が大半となっている。
高額な医療資源投入を必要とする日のみ、ケアユニットを利用し、回復次第直ちに一般病棟に転棟することがあるべき姿であろう。
適正入室、高回転運用に向けて
ケアユニットは、入室症例の基準が規定されており、重篤な症例が入室するという特殊な病棟環境だが、ケアユニットの入室症例は今後、一般病棟と同じようにデータに基づいて評価され、本来の意味での超急性期の症例の受け入れが求められるようになるだろう。 ケアユニットにおいては、医療資源の集中投下による患者の早期回復が期待されている。制度上求められているのは、適切な症例を入室させ高回転で運用させていくための病床管理であるが、そのためには、ケアユニット単体ではなく院内全体のフローを考えていく必要があるだろう。
ケアユニットを設置する病院では、同時に7対1入院基本料を届け出ていることが多いであろう。2018年度の次期診療報酬改定では、7対1入院基本料の施設基準厳格化などが検討される予定で、ケアユニットそのもの施設基準などが見直される可能性もある。病床機能報告における高度急性期・急性期機能との関連も、近い将来議論されることになり、今後、どの入院基本料を届け出るのか、ケアユニットの在り方をどう考えるかが病院経営上、極めて重大なテーマとなることは間違いない。本稿の分析結果が、貴院のケアユニットの在り方やベットコントロールを考える上で、一つのきっかけになれば幸甚である。
◆ 入院区分別算定状況