急性期病院なら押さえたい2018年度改定の重要論点
―在宅、訪問看護

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 診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬の3つの報酬改定が行われる2018年度の「トリプル改定」。メディ・ウォッチ・ジャーナルでは診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会のこれまでの議論を振り返り、急性期病院なら絶対に押さえておきたい「急性期入院医療(7対1・10対1)の見直し」、「退院支援・在宅復帰の強化」、「地域包括ケア病棟の機能分化」「高度急性期ユニット」「回復期リハビリテーション」「介護医療院の創設」について見てきた。今回は、「在宅での見取りの強化」、「訪問看護ステーションの機能強化」、を確認する。

同一や隣接する建物への在宅医療提供で評価を厳しく(在宅での看取りの強化1)

 地域包括ケアシステムの構築に向けて、「患者が希望に応じて、入院医療と在宅医療とを選択できるような体制」の確保が求められているが、現状では在宅医療提供体制は必ずしも十分に整備されていない。このため、2018年度からの新たな医療計画(都道府県が作成)の中で在宅医療体制の整備目標を記載するとともに、診療報酬での下支えが重要課題となっている。

 2016年度の前回診療報酬改定において、在宅医療の報酬体系が大きく組み替えられた。具体的には、▼1か月に2回以上の訪問を行っているか▼1か月当たりの同一建物における訪問人数はどの程度か(1人か、2-9人か、10人以上か)▼対象患者は重症か—という3つの軸に沿った点数設定がなされている。

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 厚労省は2018年度に向けて、さらに「当該住宅と医療機関が同一建物、あるいは隣接しているか」(以下、同一建物医療機関)という新たな評価軸を導入した。▼有料老人ホームなどに居住する自立(1割弱)または要支援1・2(4-6割)の入所者にも月2回以上の訪問診療が行われている▼入所者がもっとも利用する在宅医療機関の1割程度は同一建物医療機関である▼一部(5.5%)の医療機関では、訪問診療患者の過半が要介護1以下である—ことなどを踏まえたもので、同一建物への訪問は、当然コストが小さくなるためだ。

 ところで、在宅医療技術の推進によって、末期がん患者が在宅療養を送り、在宅で最期を迎えるケースが増加している。多くのケースでは、在宅医療だけでなく在宅介護(訪問看護や訪問介護など)の双方が必要となるが、中には「在宅医療を提供する医療機関と、介護保険サービスの調整を行うケアマネジャーとの連携に不備が生じて、適切なサービスが十分に行われない」こともあるようだ。末期がん患者では急速に機能が低下するため、予めケアマネが主治医から「予後」や「予測される状態」などの情報を得て、それを十分に踏まえて適切なケアプランを作成することが必要となるため、末期がん患者に対する在宅時医学総合管理料などの要件に「医療機関とケアマネとの情報共有・連携』などを設定した。

在宅でターミナルケア受け、死亡直前で入院した場合も「看取り」にカウント(在宅での看取りの強化2)

 こうした在宅看取りの推進に向けて、診療報酬上の評価も見直されてきており、例えば(1)在宅で看取りを行った場合の加算(在宅看取り加算やターミナルケア加算)の設定(2)高い診療報酬が算定できる「機能強化型の在宅療養支援診療所」(機能強化型在支診)において、施設基準に一定の「在宅看取り」件数を設定—が行われている。ただし、「できるだけ自宅で暮らしたいが、家族に迷惑をかけないよう、最期の最期は医療機関を希望する」と考える人もいる。そこで、2012年度の前回同時改定で在宅看取りの加算が▼看取り行為そのものを評価する【在宅看取り加算】▼看取りに至るまでの継続的な医学管理を評価する【ターミナルケア加算】―に細分化され、後者の【ターミナルケア加算】は、最期に入院した患者(往診や訪問診療から24時間以内の在宅以外で死亡した患者)でも算定することが可能だ。

 しかし、(2)の機能強化型在支診などの施設基準では、「在宅での看取り」件数が評価対象となり、「最期の最期に入院してしまった」患者にターミナルケアを提供していたとしても、「看取り」件数にはカウントされていない。そこで厚労省は、「在宅療養患者が、在宅主治医と病院との連携の下で、本人・家族の希望に基づき、最期を入院で看取った場合」を評価することとした。より柔軟な「在宅看取り」を進めるものと言えよう。

 また、ターミナルケア・看取りに関しては、厚労省が「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定しており、「ガイドラインを参考に行う医療提供方針の決定プロセス」などを診療報酬上で評価する案も浮上している。

 なお、計画的な診療提供を行う「訪問診療」について、現在は「1人の患者に対し、1つの保険医療機関保険医の指導管理の下に継続して行われる」こととなっている(別の医師が代わりに訪問を行った場合には診療報酬を算定できない。患者の求めでないので往診の算定も不可)。在宅医療の内容は「見えにくい」ために、不適切な訪問診療を誘発しないようにするためである。

 しかし、▽医療の高度化(専門分化)▽疾病構造の多様化・複雑化(複数疾病を抱える高齢者の増加)▽医師の負担軽減―を考慮したとき、例えば、内科の医師と皮膚科の医師が連携して、交互に訪問診療を行い、内科医師が基礎疾患を管理し、皮膚科医師が褥瘡を管理する、といった形態が効果的なことも考えられる。

 厚労省は両者のバランスを考慮し、▼在宅における療養計画に基づく▼患者・家族の同意を得る—ことを最低条件として、「在宅主治医が、他の医療機関に当該患家への訪問診療を依頼し、それが実施される」ことを診療報酬で評価することとした。

通院が特に困難な患者に対する在宅医学管理を手厚く評価(在宅での看取りの強化3)

 さらに、要介護2以上など「通院が特に困難な患者」に対して在宅医学管理を行う場合、在総管などに新たな加算【包括的支援加算】を創設し、次のような4段階での報酬となる。

▼末期がんなどの重症患者への月2回以上の在宅医学管理(現行と変化なく「高い点数が設定された月2回以上の在総管」を算定できる)
▼要介護2以上など「通院が特に困難な患者」への月2回以上の在宅医学管理(現行より引き下げられた「通常の月2回以上の在総管」と新たな「包括的支援加算」を算定できる。現行より高点数となる)
▼通常患者への月2回以上の在宅医学管理(現行より引き下げられた「通常の月2回以上の在総管」を算定できる。現行より低い点数となる)
▼通常患者への月1回の在宅医学管理(現行より引き上げられた「通常の月1回の在総管」を算定できる。現行より高い点数となる)

訪問看護ステーション、病院併設型を手厚く評価(訪問看護ステーションの機能強化1)

 訪問看護は、提供主体別に考えると「訪問看護ステーションからの訪問看護」と「医療機関からの訪問看護」に分けられ、前者は増加傾向にあるが、後者は増えているとは言えない。2015年度の介護報酬改定、2016年度の診療報酬改定では、「訪問看護を担う看護師を育成する役目」にも着目して、医療機関からの訪問看護の報酬を引き上げたが、その効果は現れていないようだ。

 この背景には、医療機関における看護師不足があり、現状のままで「医療機関の訪問看護」の報酬を引き上げても、効果は限定的になりそうだ。

 訪問看護ステーションを、「病院に併設している訪問看護ステーション」(ここでは併設型)と「単独に開設している訪問看護ステーション」(ここでは単独型)とに分け、両者の機能を分析すると、▼併設型のほうが、単独型よりも看護職員数が多い(看護師は併設型4.7人、単独型4.2人)▼併設型のほうが、利用者数・訪問回数が多い▼併設型のほうが、緊急訪問実施や重症者受入数が多い—ことが分かった。

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 また、併設型では、単独型に比べて「看護学生などの実習受け入れ」「地域の医療機関や訪問看護ステーションからの研修受け入れ」「対応終了患者や死亡患者の家族への相談」などに積極的に取り組んでいる状況も伺える。

 厚労省は、こうした併設型の実績や機能、さらに将来性(病院看護師の2割弱が訪問看護ステーションへの就労意思を持っている)などに着目し、「病院併設型訪問看護ステーション」について手厚く評価することとした。

 「訪問看護の利用者が急性増悪した場合には、円滑に併設する病院への入院などが可能となる」「病院と併設型訪問看護ステーションとで定期的な人事交流を行うことで、双方の看護師のスキルが上がる」などの効果も期待できる。後者は、「病棟看護師が訪問看護に従事することで、どの状態まで改善すれば退院可能であるとの判断基準が変わり(病棟看護師が考えているよりも重篤な状態で、在宅療養が可能)、より円滑な退院支援につながる」「訪問看護に携わる看護師が病棟などに勤務し、最新の看護・医療に関する知識・技術を身に付け、後の訪問看護に活かせる」といったメリットが期待されるので、日本看護協会でモデル事業を実施し、効果が実証されている。

医療機関と訪問看護ステーションの連携を更に強化(訪問看護ステーションの機能強化2)

 ところで「入院後に一定の医療が必要な患者」に対して訪問看護を提供する場合、退院前に医療機関と訪問看護ステーションが共同して必要な指導を行うことが、円滑な退院やその後の訪問看護提供にとって効果的であり、訪問看護管理療養費の【退院時共同指導料】などで評価されている。

 一方、在宅療養を送りながら訪問看護サービスを受けていた患者が、症状悪化などで医療機関に入院する場合、訪問看護側の情報提供も、適切な入院医療提供にとって非常に重要となる(既往歴や病床経過といった医学的情報にとどまらず、家族構成や要介護認定の状況[退院支援時に極めて重要]、疾病の受け止めや不安、認知症症状の有無(医療・看護提供時に極めて重要)などの情報)の提供も、適切な入院医療提供にとって非常に重要となる。

 現在、後者の経済的評価は行われていないが、多くの訪問看護ステーションが情報提供を行っている実態があり、2018年度の次期改定で評価が行われる見込みだ。診療報酬は「ゼロから頭の中で考える」のではなく、「既に実施している(ほとんどは手弁当で実施)事例」を参考に構築され、今般の提案は、まさにその「評価の有無に関係なく実施されているものを評価する」好事例と言えよう。

 ところで、前者の評価を行う【退院時共同指導加算】などは、入院医療機関と訪問看護ステーションとが、いわゆる「特別の関係」にある場合には算定できない。診療報酬上の「特別の関係」とは、▼同一法人▼開設者が同一▼開設者が親族同士—などを意味し、例えば「同じグループ内で患者を移動させ、その都度に診療報酬を得る」ことを防止するための規定である。しかし、地域における機能分化・連携の強化が重視される中では、「特別の関係」にあっても、適切な情報提供や共同指導を進めるための経済的な評価がなされ、厚労省は、「特別の関係」に基づく算定制限を廃止した。

 このほか訪問看護については、▼【24時間連絡体制加算】を廃止し、【24時間対応体制加算】に一本化する▼看護補助者の同行による【複数名訪問看護加算】において、「末期がん患者など」「人工呼吸器装着患者など」「特別訪問看護指示書による患者」への訪問では回数制限がないが、1か月に400回以上という不適切とも思われる頻回訪問があり、回数制限を導入する▼複数の訪問看護ステーションから訪問看護を提供する場合には【在宅患者連携指導加算】などが一方しか算定できないが、訪問看護ステーションと医療機関とが訪問看護を提供する場合には双方で算定できることとなっており、適正化を行う(一方のみの算定とする)▼「歩行が可能な医療的ケア児」でも、(準)超重症児と同様な【長時間訪問看護加算】の算定を可能とする(週1回から週3回へ算定を拡大する)▼特定相談支援事業所や療養通所介護を併設する訪問看護ステーションについて、機能強化型訪問看護ステーションとなる道を広げる(現在、「ターミナルケア20件以上」または「ターミナルケア15件以上、かつ超重症児などの利用者数4件以上」などなっている機能化型の選択要件について、例えば「ターミナルケア●件以上、かつ療養通所介護事業所の併設」などの選択肢も追加・拡大する)―などの見直も行った。