1割の病院が年間600万円以上の減算!? ~外泊から考える「自院の本当の姿」とは~【4月22日更新】

 ※外泊減算の分析定義の一部に誤りがあったため図表および本文を修正しました。

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 皆さんの病院では、当たり前のことを当たり前に実施できているだろうか?

 DPC制度下では、その制度の特徴を踏まえて取り組むべき事項がいくつかある。術前検査の外来化を進めたり、術後の抗生剤・ルーチン検査を必要最小限に抑えたり、本稿1月号でも取り上げた病名記載とDPCコーディングの徹底もその一つである(関連記事はこちら)。

 これらの「当たり前」ができていない病院では、当然ながらDPCによる恩恵を十分に受けることができず、日々の診療が経営に貢献できていない状況が生じている。

 本号では、数ある「当たり前」の中から「外泊減算」に注目し、その経営的なインパクトと改善に向けたポイントについて解説する。執筆に向けた分析を通じてわかったこと:驚くことに分析対象施設の1割以上が年換算600万円以上の外泊減算になっていた!


<分析条件>
データ期間:2018年4月~2019年2月退院症例
対象施設数:838病院
対象:DPC病棟に入院した全ての症例を対象とする(精神科、精神神経科、心療内科の症例は除く)


全ての外泊が問題という訳ではない。1泊2日までなら減算なし。

 外泊減算は、0~24時の全ての時間を外泊(病院不在)していた場合に適用される。したがって、1泊2日の外泊は減算の対象とはならない。例えば、2泊3日の外泊の場合には外泊を開始した日の翌日が減算の対象となるのだ。

 よくあるケースは、金曜入院~月曜手術の症例において金曜夕方から外泊し、日曜夕方に帰院するパターンだ(図表1参照)。この場合、土曜が外泊減算対象となる。ということは、外泊開始を土曜午前中に遅らせれば外泊減算を回避できるのだ。

【図表1】 外泊減算に係る算定ルール(イメージ)



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約1割の病院では月50万円(年600万円)以上の外泊減算が生じている!

 まずは、病院全体での外泊減算金額を確認する。図表2は、月あたりの外泊減算金額をベンチマークしたものだ。平均値は約26万円/月。多くの病院では外泊に対する対応が進んでおり、月10万円以下の病院が約54%(456病院)を占める。一方で、外泊減算金額が月50万円(年600万円)を超える病院も約11%(94病院)存在している。貴院では外泊減算の対応ができているだろうか。巻末資料では、貴院の外泊減算金額を確認できる。改めて外泊減算が及ぼす経営インパクトについて確認頂きたい。

【図表2】 月あたり外泊減算額(左軸)× 月あたり外泊減算日数(右軸)ベンチマーク



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ポイントはDPC入院期間Ⅰでの外泊をいかに防止するか。

 では、どのようにして外泊減算を減らしていくか。まずは入院期間Ⅰにおける外泊減算日数割合に注目したい。図表3に入院期間別の外泊減算インパクトのイメージ図を示した。DPC制度下では入院期間Ⅰにおける日当点が高く設定されている分、入院期間Ⅰで外泊した場合の減算金額インパクトが非常に大きい。急性期一般入院料1(旧7対1入院基本料)の場合は1日あたりの入院基本料15,910円の15%分、つまり2,390円しか請求できない。入院期間Ⅰにおける外泊減算日数割合が高いということは、それだけ外泊減算のインパクトも大きくなりやすいということだ。

【図表3】 入院期間別 外泊減算インパクト(イメージ)



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 図表4には、全入院期間を通じての外泊減算日数に対する入院期間Ⅰの外泊減算日数割合ベンチマークを示した。入院期間Ⅰでの外泊が生じているケースでよくあるのは、冒頭でも紹介した金曜入院~月曜手術のパターンだ。

 病院によっては、特定の疾患において外泊がパスに組み込まれている場合もある。貴院ではそのようなパスが存在してはいないだろうか。改めて確認をして頂きたい。

【図表4】 全入院期間外泊減算日数に対する入院期間Ⅰ外泊減算日数割合ベンチマーク



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外泊減算の多い疾患とは?

 図表5は、DPC別の外泊減算状況をまとめたものだ。外泊減算日数の多いDPCとして、血液系疾患や小児疾患、整形疾患、肺の悪性腫瘍をはじめとしたがん化学療法のコードなどが上位に挙がっている。

 特に1症例あたり外泊減算日数が多い疾患では、1入院の中で外泊を繰り返している症例が多いことを示している。これらも前述の金曜入院~月曜手術のケースと同様に、外泊がパスに組み込まれている可能性が高い。治療における外泊の必要性と経営的なインパクトを考慮したうえで外泊の在り方について検討したい。

【図表5】 DPC別 外泊減算状況(外泊減算日数の多い上位20コード)



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外泊減算状況の可視化。その先には・・・

 本号では、外泊減算状況について可視化した。入院後期の外泊の中には自宅復帰に向けた試験外泊なども含まれており、外泊を完全にゼロにする必要はない。しかし、冒頭で例に挙げたような月曜手術前にベッドを確保しておくためや病棟看護師の業務負担軽減のために金曜日に入院、入院手続き後土日外泊するパターンなど見直しが可能なケースも多いのではないだろうか。近年はPFM(Patient Flow Management)の推進などにより、土日入院~月曜手術というケースも増えてきている。年換算で数百万円単位の減収要素となっている状況については、今すぐ改善に取り組んで頂きたい。

 最後に、外泊減算がこれだけ多くの病院で今もなお残っている現状についてマクロな視点で考えてみたい。奇しくも、病床機能報告や公立病院改革プランなど、病院・病床機能の再編を求める政策が積極的に施行されている時代である。確かに「空気を入院させるよりは・・・」という考えもあるだろうが、これを機に、外泊を除いた場合の「本当の病床稼働率」をしっかりと見つめ直し、地域にとって将来的に必要な病床機能・規模とは何であるかについての議論が必要だろう。

解説を担当したコンサルタント 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう)

snakamura 東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の医療機関における複数の改善プロジェクトに従事。入退院サポートセンター開設支援、病院再編・統合、病院職員の生産性向上など社内の新規事業プロジェクトを担当する。
解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

snakamura 社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。コンサルティング部門チームリーダー。豊富な社会保障制度の知識とコンサルタントの経験やノウハウを生かして、「メディ・ウォッチ」で積極的な情報発信をする。日本経済新聞や週刊ダイヤモンドなどメディアの取材協力も多数。
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