新設「入院時支援加算」へ取り組む前に 「入退院支援加算」の見える化を!

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 2018年度診療報酬改定で新設された「入院時支援加算」。退院時1回200点を算定できる加算だが、対象となる患者は「自宅等からの予定入院、かつ、入退院支援加算を算定した症例」と門戸は狭い。

 入院時支援加算は、あくまで「入退院支援加算(旧・退院支援加算)に上乗せされる加算」であり、入退院支援加算(以下、旧・退院支援加算も含めて「入退院支援加算」という)の算定が不十分なまま入院時支援加算への取り組みを開始しても、対象となる患者は少なく人手だけが取られてしまいかねない。

 今回は、いかにして入退院支援加算の算定状況を改善し、入院時支援加算の算定対象症例を拾い上げていくか、について説明する。

入院時支援加算の対象症例割合(算定ポテンシャル)は10%!?
——自宅等からの予定入院、かつ、入退院支援加算を算定した症例割合ベンチマーク

 入院時支援加算の算定対象となるのは、「自宅等からの予定入院患者」かつ「入退院支援加算を算定する患者」だ。

 2017年10-12月におけるMWJ登録701病院のDPCデータを分析すると、この算定要件に該当する患者は、全患者415,922症例(15歳未満、死亡、在院日数(DPC)7日以内のいずれかに該当する症例は除く)のうちわずか10%程度(39,586症例)しか存在しなかった。仮に500床1,000症例/月の病院で試算すると、入院時支援加算による増収ポテンシャルは1か月あたり20万円(1,000症例×10%×200点×10円/点=200,000円)にしかならない。

 果たして、入院時支援加算による収益的メリットは本当にこれだけなのだろうか?

【図表1】 入院時支援加算の新設
対象は、予定入院、かつ、入退院支援加算を算定する症例に限定
MWJvol136_atc_fig1v2

「(1)退院困難事由のスクリーニング徹底」と「(2)退院支援フロー確立(3日以内の情報収集、7日以内のカンファ)」の2点がポイント

 実は前段で示した増収ポテンシャルには、入院時支援加算の対象になりうる(予定入院、かつ、退院困難事由を有する症例)にもかかわらず入退院支援加算を算定できていないケースは含まれてない。

 入退院支援加算を算定できていない理由はいくつかあるが、特に重要なポイントは次の2点だ。

 (1)退院困難事由のスクリーニング徹底

 (2)退院支援フロー確立(3日以内の情報収集、7日以内のカンファ)

 前者は入院支援センターなどの参画率によって、後者は入退院支援加算の算定率によって現状を把握することができる(図表2)。

【図表2】ポイントは、(1)退院困難事由のスクリーニング徹底
 (2)退院支援フロー確立(3日以内の情報収集、7日以内のカンファ)
MWJvol136_atc_fig1v3

自院では何が問題か?
——「(1)入退院支援加算算定率」×「(2)予定入院症例における入退院支援加算算定率」でみる自院の立ち位置

 図表3では、横軸に「(1)入退院支援加算算定率」、縦軸に「(2)予定入院症例における入退院支援加算算定率」を取った。

 それぞれの象限ごとに論点は異なる。貴院はどの象限に位置するだろうか。

【図表3】横軸:(1)入退院支援加算算定率
     縦軸:(2)予定入院症例における入退院支援加算算定率
MWJvol136_atc_fig3v2

 例えば、(1)が高く(2)が低い右下の象限に貴院が位置した場合は「(予定入院症例における)退院困難事由のスクリーニングをいかに徹底するか」が課題となる。一方、(1)が低く(2)が高い左上の象限に貴院が位置した場合には「退院支援フローを確立し、スクリーニングで抽出された対象症例をいかに速やかに退院へ導くか」が課題となる。

 後者の「退院フロー確立」については、恐らく多くの病院で既に取り組みを進めていることだろう。果たして、前者の「スクリーニング」について十分な取り組みができているだろうか? 図表4では、図表3における縦軸((1)入退院支援加算算定率)と横軸((2)予定入院症例における入退院支援加算算定率)について病院別の状況を示した。自院の立ち位置を確認していただきたい。

【図表4】病院別 (1)入退院支援加算算定率
         (2)予定入院症例における入退院支援加算算定率
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予定入院症例における退院困難事由のスクリーニングは十分にできているか?
——予定入院症例における疾患別入退院支援加算算定率ベンチマーク

 図表5では、疾患別(MDC6別)の予定入院症例数と、そのうち入退院支援加算を算定した症例割合(算定率)を示した。

 予定入院で入退院支援加算を算定した症例は、悪性腫瘍で多い。どの部位でも概ね20-30%の症例で算定している。また、整形疾患も比較的上位に来ている。TKA(070230膝関節症(変形性を含む。))やTHA(07040x股関節骨頭壊死、股関節症(変形性を含む。))では30%を超える算定率だ。

 それぞれの疾患における自院の算定率はどのような状況だろうか? 全国の算定状況と比較し、ぜひ改善につなげてほしい。

【図表5】予定入院症例における疾患別入退院支援加算算定状況
MWJvol136_atc_fig5v2

 今号では、新設された入院時支援加算の潜在的な算定ポテンシャルを示した。ポイントは「(1)退院困難事由のスクリーニング徹底」と「(2)退院支援フロー確立(3日以内の情報収集、7日以内のカンファ)」。特に、前者のスクリーニングが徹底されているかどうかについては他病院との比較をしない限り評価しづらい部分だ。ベンチマーク結果を活用し、貴院の立ち位置を確認して頂きたい。

 入院時支援加算では、専従の看護師1名など一定の体制整備も要求されている。投入するコストに見合った収益を上げられるように、まずはこれまでの取り組みを振り返るところから始めたい。

解説を担当したコンサルタント 中村 伸太郎(なかむら・しんたろう)

snakamura 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。病院コンサルティング会社で約7年勤務後、診療所向けコンサルティング会社を経て、GHC入社。DPC分析、財務分析、事業戦略立案などを得意とし、公立病院(600床台)のDPC分析、公立病院(400床台)の看護必要度分析、公立病院(500床台)のリハ分析、公的病院(200床台)の病床戦略検討などを担当する。
解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。