ハイリスク薬の薬剤管理指導料算定向上を目指そう!

2017年4月6日に公開された「新たな医療の在り方を踏まえた 医師・看護師等の働き方ビジョン検討会 報告書」では、薬剤師の生産性と付加価値の向上についてあるべき姿が下記のように明記された。

●   人材不足に対応しうる効率的で生産性の高い業務にシフトしていくべき。
●   調剤を主体とした業務構造を変革し、専門職として処方内容を分析し患者や他職種に助言する機能や、薬物療法のプロトコルを策定する機能を強化すべき。

しかしながら、2016 年度に新設された「薬剤総合評価調整加算(入院前に6種類以上の内服薬を退院時に2種類以上減少させた場合に算定:退院時に250 点)」を算定している病院は784 病院中288 病院と半数以下にとどまり、平均算定率も0.1%(最高4.1%、GHC 保有データより)とごくわずかであった。

重症度、医療・看護必要度25%以上を維持するためにも在院日数短縮が強いられる急性期病院において、「内服薬の種類を削減しても患者の状態は変わらない」ことを確認するためには、一定以上の在院日数が必要であることからアクションに踏み出せないのが現実のようだ。

メディ・ウォッチ・ジャーナル2016 年12 月の薬剤部門に対する読者アンケートでは、主に「病棟薬剤業務実施加算」について報告した。今回は、薬剤管理指導料算定、特に薬剤管理指導料1 に焦点を合わせ、限られたマンパワーの中で、いかに算定症例を増加させ、医療の質と経営の質を向上させていくかに言及する。

 【分析条件】
対象期間:2016 年4 月~2016 年12 月退院症例
対象病院:784 病院3,682,688 症例(短期滞在手術等基本料3 算定症例を除く)

まず、都道府県ごとの100 床あたりの薬剤師数と薬剤管理指導料算定率を見てみよう(図表1)。薬剤師数は、厚生統計要覧(2015 年度)および2016 年医師・歯科医師・薬剤師調査から算出している。マンパワーは、東京を中心とした関東圏、大阪を中心とした関西圏が充実している傾向にあり、宮崎や秋田と比較すると約2 倍。症例に対する薬剤管理指導料算定率は病床当たりの薬剤師数と弱いながら相関もあり、マンパワーの充実度が薬剤管理指導料算定数に及ぼす影響は小さくないことは改めて共有したい。

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薬剤管理指導料は、特に安全管理が必要な医薬品が投薬又は注射されている患者に対して行う場合は薬剤管理指導料1 として380 点、それ以外の場合は薬剤管理指導料2 として325 点とされている。薬物安全管理の観点からも、経営的観点からも、限られたマンパワーでいかに薬剤管理指導料1 算定数を向上させていくかが非常に重要だ。図表2 では都道府県単位での算定状況を示している。症例に対する薬剤管理指導料算定率は平均61.3%、薬剤管理指導料算定症例数に対する薬剤管理指導料1 の算定比率は平均40.3%だった。薬剤管理指導料1算定比率が高い(50%以上)地域は鹿児島、大分、北海道、対して算定比率が低い(30%以下)地域は、富山、熊本、徳島。さらに、各医療機関の算定率状況を図表3に示す。(ウェブ掲載記事に病院コードと算定率を記載したエクセルシートを掲載しますのでご活用ください)

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図表3 の算定状況分析から、象限ごとに今後の課題は異なることが分かる(図表4)

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改めて、薬剤管理指導料1 が算定できる薬剤を確認しよう(図表5)。特に安全管理が必要な医薬品は、薬効分類上現在12 種が認定されている(ハイリスク薬)。今回の分析対象はその中の7 項目で、対象薬剤を処方された症例に対する入院中の薬剤管理指導料算定率、薬剤管理指導料1算定比率を見ている(図表6~12 ※ウェブ掲載記事に病院コードと算定率を記載したエクセルシートを掲載しますのでご活用ください、まとめ図表13)

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薬剤の種類別に、薬剤管理指導料算定症例に対する薬剤管理指導料1の算定比率のベンチマーク平均値と、留意点を示した。ここに届いていない病院では、早急に対応を検討する必要がある。

 ●抗悪性腫瘍剤:算定比率【80%以上】
重篤な副作用が高頻度に発生する。理由のない算定漏れは確実になくしたい。

●抗凝固薬、抗血小板薬、ジギタリス製剤:算定比率【70%以上】
循環器疾患で入院・既往がある症例に対して処方される薬剤である。出血傾向やジギタリス中毒の早期発見が特に重要。

●抗てんかん剤、テオフィリン製剤、糖尿病用剤・膵臓ホルモン製剤:算定比率【50~60%台】
症状が安定している場合にも副作用のリスクは存在する。持参薬の継続処方に対しても、適切に評価・記録を行っているかを確認したい。

今回は、薬剤管理指導料算定状況を地域ごとに見ることから始め、ハイリスク薬に対する薬剤管理指導料1 算定向上に向けて分析を行った。限られたマンパワーでいかに薬剤管理指導料1 算定数を向上させていくかが医療安全と病院経営の両面から非常に重要だ。ハイリスク薬処方症例に対しての薬剤管理指導料1 算定比率は限りなく100%に近くなければならない。日ごろから薬剤師が注意することはもちろんのこと、対象薬剤に対して薬剤管理指導料1 を算定していない症例は、チーム医療の更なる充実の意味からも医事課から薬剤師へ問い合わせを行う習慣を作ることが算定漏れをなくす大きな支援となる。

 

◆各病院算定率のエクセルをダウンロード

 

解説を担当したコンサルタント

塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。

 

解説を担当したコンサルタント

坪田 悠真(つぼた・ゆうま)

morimoto 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
富山大学大学院 医学薬学教育部 消化管生理学 修士課程修了。病院勤務を経て、GHCに入社。調剤薬局管理薬剤師、急性期病院薬剤師の資格を持ち、DPC分析、薬剤分析を得意とする。