効果的な在院日数短縮の3ステップ

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はじめに

急性期病院にとって、在院日数の短縮は▼DPC日当点▼重症度、医療・看護必要度▼基礎係数(診療密度)▼機能評価係数II(効率性指数)―と複合的観点から優先順位が高い。
一方で、在院日数を短縮することで空いてしまう病床に新たな入院患者を獲得できなければ、収益のダウンとなるという在院日数短縮のジレンマを抱えている。いかに効率的かつ効果的に在院日数を短縮するためにはどうしたら良いのか、非常に悩ましい。今回のワンポイントレッスンでは、病院ダッシュボードの機能を用いて、より効果的な在院日数短縮方法を紹介する。

ステップ1:全国の患者構成のトップ疾患から検討を始めよう。

〇 機能評価係数Ⅱ・効率性指数の定義
〔全DPC対象病院の平均在院日数〕/〔当該病院の患者構成が全DPC対象病院と同じと仮定した場合の平均在院日数〕
「患者構成が全DPC対象病院と同じと仮定した場合」という部分が重要だ。いわゆる、自院の患者構成は関係なく、全国的に多い疾患(DPCコード)の在院日数を短くすることで、補正後の自病院の在院日数は短くなる。

〇 基礎係数・診療密度の定義
1日当たり包括範囲出来高平均点数(全病院患者構成で補正)
本項目も効率性指数同様に「全病院患者構成」が用いられている。診療密度においても、全国的に多い疾患(DPCコード)での1日あたり包括範囲出来高点数が高くなることで、診療密度全体が押し上げられやすい設計になっている。

では、「全病院患者構成」はどの様に知ることができるのだろう。全国的に症例の多いDPCコードの精緻な順番は、厚生労働省が公開しなければわからない。しかし、600病院以上のベンチマークを持っている病院ダッシュボードを用いると、おおよその優先順位を把握することが可能である。

【DPC俯瞰】⇒【基礎係数分析】⇒【実施要件1 SIM】をクリックすると、GHC保有データより、症例数の多いDPCコードを「GHCランキング」として掲載している。
本画面は、Ⅱ群を目指す病院が基礎係数を上げるためのシミュレーション機能であるが、全国的に多い疾患(DPCコード)も知ることができる。
この上位疾患の中で、自病院で月1症例以上あるDPCコードにおいて、在院日数短縮が検討できるものを選択したい。今回は、GHCランキング4位の股関節大腿近位骨折手術ケースを取り上げる。

ステップ2:疾患別在院日数の現状を把握しよう。

図1は、【DPCケース分析】より「股関節大腿近位骨折」をクリックしたロードマップである。

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在院日数を検討するにあたり“平均”ではなく、「在院日数分布」を見ていただきたい。
図2は、自病院の術式別在院日数分布である。ここで検討すべきは、「期間Ⅱ以内に入っているか否か」よりも「バラつきが生じている原因は何か?」という点である。
今回のケースの「骨折観血的手術」では、画面を右にスクロールすると、60日を超える症例もあった。この在院日数分布は、DPC対象病棟の在院日数をプロットしているので、それだけ長く一般病棟に入院していたことになる。
図3は、他病院の在院日数分布で、10日頃から症例数が徐々に増え、在院日数のピークは3週間前後だ。

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ステップ3:在院日数の検討 対策を検討しよう。

重症度の観点:「骨折観血的手術」である骨の手術では、C項目は5日間点数が付くことにより5日分の重症度が確保される。入院期間のうちの重症度を満たせる日数割合を考えた時、在院日数10日の場合の重症度が50%、20日間では25%、50日間では10%となり、7対1病棟の施設基準である「重症度を満たす患者割合25%以上」という観点からの設定在院日数は、20日が一つの基準となる。
DPC制度の観点:現在期間Ⅱは26日(ただし、前回と今回では2日短縮しており、次回も短縮すると予想される)。

重症度・DPC制度、両方の観点からも、入院してから3週間前後の在院日数マネジメントが求められる。 

では、なぜ自病院では、在院日数にバラつきが生じているのだろうか?自病院の要因、他病院の要因、患者の要因の3つの観点から検討していく。 

〇 自病院の要因
 ・MSWの介入がバラバラである
 ・一般以外に転棟する病棟を有していない
 ・転院・転棟の判断基準が曖昧である、または判断が遅い
  など

〇 他病院の要因
 ・受け入れ先が少ない(絶対数が少ない、回転が悪く常に満床などの要因)
 ・受け入れ先に拒否される(関係構築が十分にできていない)
 ・先方の動きが遅い
  など

〇 患者の要因
 ・医学的に一般病棟から転院・転棟できる状態ではない
 ・転院を拒む(患者自身もしくは家族が拒む)
 ・自宅の改修中
  など

まとめ

次回の診療報酬改定も厳しい内容が想定される。7対1病床だけでなく、10対1においても同様である。基準の厳格化に対応するためには、一般病棟の在院日数を詳細に検討することが不可欠である。一律に短縮するのではなく、病院ダッシュボードをフル活用して、効果的に短縮の検討を行って頂きたい。

解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「コンサル視点が瞬時に分かる」をコンセプトに開発された次世代型病院経営支援ツール「病院ダッシュボード」の営業統括も務める(関連記事「病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと」)。