診療報酬改定の議論が進む中、入院1日当たりの医療費(以下、1日単価)は増加しているが、平均在院日数が減少傾向にある資料が示された(図表1)。薬剤費、材料費が大きくなる中、病院経営を改善していくためには1日単価の向上は必須である。一方で病床稼働率の向上が、重症度基準さえ満たしていれば、時として1日単価向上よりも優先順位が高いことがある。
患者増加方策を検討するためには、まず現状を把握する必要がある。この際、疾患別に予定入院と緊急入院を分けて、地図上で患者の流れを確認するために活用できるのが、病院ダッシュボードの患者エリア分析である。患者エリア分析というと、すぐに「項目別分析」をクリックされる方が多いかもしれないが、まずは「ベンチマーク俯瞰」で得られる情報から状況を推測することで、注力すべき増患の方向性が見えてくる(図表2)。
俯瞰マップでは年月を指定すると、指定年月の前年同一期間の数字を確認することができる。全病院との比較もできるが、自病院が患者を減らしているか増やしているかを知ることが最も重要であり、1年間のデータであれば①と③、半年間データであれば、①~③を比較すると、患者動向を確認することができる(図表3)。
診療科別で症例数の増減を確認する際、どの疾患の変化が目立つのか、項目別にその変化が示す意味にまで着目してデータを読み取ってもらいたい。例えば、症例数が増加していた際、他病院紹介ありの割合が上がっていれば、他病院との連携が成功していることを示す。逆に症例数が減少し、特に救急搬送症例の割合が下がっている場合は、救急車が何らかの影響で他の病院に流れていることが考えられる。
たとえば、上記のようなデータが得られた際にどのように考えればよいか(図表4)。小児科は症例数が多いものの、前年と比較して月症例数を24症例も減らしている。平均距離を見ると8.2kmから7.7kmになっており、患者移動距離が短くなっていることが分かる。単純に地域全体で年間の小児患者数が減ったのであれば、平均距離は短くならないはずであり、「近隣の病院が小児に力を入れ出したために少なくなったのだろうか」といった推測が可能になる。外科、整形外科、眼科などにも同じ傾向がみられる。
さらに表右側の指標を見てみると、他院紹介ありの割合はいずれも増加傾向にあり、地域連携はうまくいきつつあることがわかるが、全体の症例数が落ち込む中、救急車搬送症例の割合が小児科、整形外科については落ちている(図表5)。ここから小児科では「地域における救急車の動きが変わったのだろうか」と推測していくことになる。
予定入院の割合を見ても大きな変動は見られない(図表6)。もし全体症例数が減少し、予定入院の割合が減少していれば、症例数減少の要因は予定入院患者数の減少にあることがわかり、地域連携で予定入院数が少なくなっている診療科に対応する診療所への挨拶回りや勉強会への勧誘、アンケート調査などが増患対策として有効な手段と考えられる。
退院先が他院外来、転院であるかを見る「退院先」の割合が減少している場合、逆紹介が落ち込むことによって紹介件数が少なくなっていることが考えられ、なぜ逆紹介が進んでいないのか院内で調査をする必要があるだろう(図表7)。
では、症例数が最も多い小児科についてもう少し掘り下げてみよう。患者エリア俯瞰マップの診療科タブで、小児科をクリックし(図表8)、小児科のMDC6別一覧を出してみよう(図表9)。一度小児科をクリックするとMDC2別に表示されるので、そのままMDC6のタブをクリックすると小児科を固定したままMDC6別に傾向を見ることができる。
小児科で最も症例数の多いウイルス性腸炎は月1症例減らしているが平均距離も長くなっているが、それほど大きな変化はない。一方、肺炎と喘息の症例数が大幅に減少しているおり、平均距離を見ると、低出生体重児が5km短くなっている。ここから、「近隣の小児・産科医療に力を入れる病院の動向を把握する必要がある」ことがわかる。
では小児科の患者数減少の理由を探るため、小児科単独以外に、産婦人科の分娩症例動向も調査してみよう。
胎児及び胎児付属物の異常、早産、切迫早産の症例数が減少している(図表10)ことが確認できるので、どの地域が減少しているかを実際の患者エリア地図で調べてみよう。
現在の直近と過去の地図を両方確認できるようにしておくと変化がよくわかる。同様に小児科についても診療科を指定し、疾患を指定すると症例数変化が把握でき、産婦人科の症例数変化と連動性があるかどうかを確認することができる。症例数が減ったエリアはなぜ減ったのか、対応の方法はあるのかなど、具体的なデータに落とし込むことで、予定入院症例の増加、救急車症例の増加に向けた戦略を立案することができる。
漠然と「なぜか患者数が減ってしまった。増患しよう!」と考えたのでは、効果的な対策を打つことができない。患者エリア分析を使用すれば、どのような症例がどの地域から減少したのかが一目瞭然であり、地域連携対策に必須の機能といえる。