患者エリア分析を活用して患者数動向を知る

 診療報酬改定の議論が進む中、入院1日当たりの医療費(以下、1日単価)は増加しているが、平均在院日数が減少傾向にある資料が示された(図表1)。薬剤費、材料費が大きくなる中、病院経営を改善していくためには1日単価の向上は必須である。一方で病床稼働率の向上が、重症度基準さえ満たしていれば、時として1日単価向上よりも優先順位が高いことがある。

図表1:平均在院日数は減少傾向にある

図表1:平均在院日数は減少傾向にある

 患者増加方策を検討するためには、まず現状を把握する必要がある。この際、疾患別に予定入院と緊急入院を分けて、地図上で患者の流れを確認するために活用できるのが、病院ダッシュボードの患者エリア分析である。患者エリア分析というと、すぐに「項目別分析」をクリックされる方が多いかもしれないが、まずは「ベンチマーク俯瞰」で得られる情報から状況を推測することで、注力すべき増患の方向性が見えてくる(図表2)。

図表2:「患者エリア分析」は、俯瞰マップがある「ベンチマーク俯瞰」と予定入院など各種項目が分かる「項目別分析」の2つからなる

図表2:「患者エリア分析」は、俯瞰マップがある「ベンチマーク俯瞰」と予定入院など各種項目が分かる「項目別分析」の2つからなる

 俯瞰マップでは年月を指定すると、指定年月の前年同一期間の数字を確認することができる。全病院との比較もできるが、自病院が患者を減らしているか増やしているかを知ることが最も重要であり、1年間のデータであれば①と③、半年間データであれば、①~③を比較すると、患者動向を確認することができる(図表3)。

図表3:俯瞰マップにおけるデータ表示期間

図表3:俯瞰マップにおけるデータ表示期間

 診療科別で症例数の増減を確認する際、どの疾患の変化が目立つのか、項目別にその変化が示す意味にまで着目してデータを読み取ってもらいたい。例えば、症例数が増加していた際、他病院紹介ありの割合が上がっていれば、他病院との連携が成功していることを示す。逆に症例数が減少し、特に救急搬送症例の割合が下がっている場合は、救急車が何らかの影響で他の病院に流れていることが考えられる。

図表4:ある病院の診療科別「月平均症例数」と「平均距離」※当該病院は年度途中で消化器科を消化器内科に、呼吸器科を呼吸器内科変更したため、消化器内科、呼吸器内科の症例数が大幅増加に見えるが、表中(非表示)の消化器科、呼吸器科と合わせると同じように傾向を知ることができる。

図表4:ある病院の診療科別「月平均症例数」と「平均距離」※当該病院は年度途中で消化器科を消化器内科に、呼吸器科を呼吸器内科変更したため、消化器内科、呼吸器内科の症例数が大幅増加に見えるが、表中(非表示)の消化器科、呼吸器科と合わせると同じように傾向を知ることができる。

 たとえば、上記のようなデータが得られた際にどのように考えればよいか(図表4)。小児科は症例数が多いものの、前年と比較して月症例数を24症例も減らしている。平均距離を見ると8.2kmから7.7kmになっており、患者移動距離が短くなっていることが分かる。単純に地域全体で年間の小児患者数が減ったのであれば、平均距離は短くならないはずであり、「近隣の病院が小児に力を入れ出したために少なくなったのだろうか」といった推測が可能になる。外科、整形外科、眼科などにも同じ傾向がみられる。

図表5:ある病院の診療科別「他院紹介有」と「救急車搬送症例」

図表5:ある病院の診療科別「他院紹介有」と「救急車搬送症例」

 さらに表右側の指標を見てみると、他院紹介ありの割合はいずれも増加傾向にあり、地域連携はうまくいきつつあることがわかるが、全体の症例数が落ち込む中、救急車搬送症例の割合が小児科、整形外科については落ちている(図表5)。ここから小児科では「地域における救急車の動きが変わったのだろうか」と推測していくことになる。

図表6:ある病院の診療科別「予定入院」と「退院先」

図表6:ある病院の診療科別「予定入院」と「退院先」

 予定入院の割合を見ても大きな変動は見られない(図表6)。もし全体症例数が減少し、予定入院の割合が減少していれば、症例数減少の要因は予定入院患者数の減少にあることがわかり、地域連携で予定入院数が少なくなっている診療科に対応する診療所への挨拶回りや勉強会への勧誘、アンケート調査などが増患対策として有効な手段と考えられる。

 退院先が他院外来、転院であるかを見る「退院先」の割合が減少している場合、逆紹介が落ち込むことによって紹介件数が少なくなっていることが考えられ、なぜ逆紹介が進んでいないのか院内で調査をする必要があるだろう(図表7)。

図表7:様式1の「退院(転科)先」において「外来(他院)」と「転院」の合計症例数が全退院症例数に占める割合

図表7:様式1の「退院(転科)先」において「外来(他院)」と「転院」の合計症例数が全退院症例数に占める割合

 では、症例数が最も多い小児科についてもう少し掘り下げてみよう。患者エリア俯瞰マップの診療科タブで、小児科をクリックし(図表8)、小児科のMDC6別一覧を出してみよう(図表9)。一度小児科をクリックするとMDC2別に表示されるので、そのままMDC6のタブをクリックすると小児科を固定したままMDC6別に傾向を見ることができる。

図表8:患者エリア俯瞰マップの診療科タブ

図表8:患者エリア俯瞰マップの診療科タブ

図表9:小児科のMDC6別タブ

図表9:小児科のMDC6別タブ

 小児科で最も症例数の多いウイルス性腸炎は月1症例減らしているが平均距離も長くなっているが、それほど大きな変化はない。一方、肺炎と喘息の症例数が大幅に減少しているおり、平均距離を見ると、低出生体重児が5km短くなっている。ここから、「近隣の小児・産科医療に力を入れる病院の動向を把握する必要がある」ことがわかる。

 では小児科の患者数減少の理由を探るため、小児科単独以外に、産婦人科の分娩症例動向も調査してみよう。

図表10:産婦人科のMDC6別タブ

図表10:産婦人科のMDC6別タブ

 胎児及び胎児付属物の異常、早産、切迫早産の症例数が減少している(図表10)ことが確認できるので、どの地域が減少しているかを実際の患者エリア地図で調べてみよう。

図表11:患者エリア分析の期間比較の設定画面※実際の地図は分析病院の特定を避けるため、本稿では割愛する

図表11:患者エリア分析の期間比較の設定画面※実際の地図は分析病院の特定を避けるため、本稿では割愛する

 現在の直近と過去の地図を両方確認できるようにしておくと変化がよくわかる。同様に小児科についても診療科を指定し、疾患を指定すると症例数変化が把握でき、産婦人科の症例数変化と連動性があるかどうかを確認することができる。症例数が減ったエリアはなぜ減ったのか、対応の方法はあるのかなど、具体的なデータに落とし込むことで、予定入院症例の増加、救急車症例の増加に向けた戦略を立案することができる。

 漠然と「なぜか患者数が減ってしまった。増患しよう!」と考えたのでは、効果的な対策を打つことができない。患者エリア分析を使用すれば、どのような症例がどの地域から減少したのかが一目瞭然であり、地域連携対策に必須の機能といえる。

解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。