2018 年度診療報酬改定で暫定調整係数は廃止され、その分が機能評価係数Ⅱに置き換わることはすでに周知のことであり、急性期らしさが評価される本係数の経営に対するインパクトは益々大きくなる。今回は、病院ダッシュボードを使って、救急医療係数の評価項目の一つである「緊急入院率」について、その向上方法と数値の妥当性に対する検証方法を紹介しよう。
緊急入院率向上方法:3 ステップ
まず、「病院ダッシュボード」⇒「DPC俯瞰マップ」 の「ベンチマーク分析」を選択する(図1)。症例数、平均在院日数等、自病院月間値に対して他病院との差が数値で表示されており、その最後の項目を見てほしい。救急にかかわる情報が掲載されている。緊急入5Med Watch Journal 2017 年5 月号(第124 号)2院率は様式1における入院経路情報(予定入院:100 番、予定外入院200 番、緊急入院300番台)の中で緊急入院と入力された症例割合を、救急搬送率は救急車による入院割合を表している。図1における緊急入院率は、GHC 病院(サンプル病院)では11.3%となっており、他病院よりも16.8 ポイント低い(つまり同規模病院における他病院平均は28.1%)。救急医療係数は、様式1での入院経路が「緊急入院」であり、かつ「入院初日から救急医療管理加算や救命救急入院料等の特定入院料が算定されている症例」が評価対象となる。したがって、予定ではない入院症例を、単なる予定外入院とするのか、緊急入院とするのかの判断は係数対策には非常に重要なのだ。
●ステップ1:診療科別、DPC 疾患別に現状を可視化する。初期設定になっている診療科別で概要を把握し、他病院と比較して差が大きい診療科に対しては個別対応が必要だ。図1では、救急医学科の他病院との差異が大きいことが分かる。
●ステップ2:診療科ごとに情報収集する。緊急入院と判断する基準がかなり高い可能性もあり、診療科別に緊急入院の判断基準を見える化する必要がある。さらに、DPC コードまで落とし込み(図2)、同じ入院時病名でも「緊急入院とする・しない」の判断基準をヒアリングしていく。
●ステップ3:院内ルールを見直す。緊急入院となる重篤な症状は下記のように提示されている(一部省略)。
ア 血、喀血又は重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害又は昏睡
ウ 呼吸不全又は心不全で重篤な状態キ 広範囲熱傷
・・・・・・・
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA 療法を必要とする状態意識障害、心不全、市中肺炎等については、それぞれ順にJCS 分類、NYHA 分類、ADROP分類等、臨床上の重症度分類も参考にしながら、重症度○○以上は緊急入院にする等の院内ルールを決めて緊急入院症例(重症症例)が漏れない仕組みを構築しよう。
自病院の緊急入院率の妥当性に対する検証:3 視点
数値が高いに越したことはないとはいえ、自病院において緊急入院率はどのくらいの数値が妥当なのだろうか。
●第1 の視点:前述した緊急入院率単独による他病院とのベンチマーク分析。
●第2 の視点:緊急入院率と救急搬送率との比率。紹介メインでほとんど救急医療を行っていない医療機関での緊急入院率を高めるには限界がある。病院ダッシュボードのベンチマーク分析から、救急搬送率に対する緊急入院率は約1.5 倍と覚えておこう(図3)。
●第3 の視点:2016 年度改定で評価項目ならびに基準値が大幅に変更された「重症度、医療・看護必要度」。この見直しにより、急性期病院が診なければならない重症患者の定義が明確になった。図4 の重症度、医療・看護必要度評価票にあるように、救急搬送患者に加えて、常にモニタリングが必要であったり、シリンジポンプ等を使用するような薬剤を投与している患者、食事摂取が困難であったり、ベッド上安静が必要、危険行動の可能性があるなどの患者の重症状態、手術等の評価がなされる状態に複数該当する状態であれば、重症患者の判断基準の一つとなる。患者状態の視点からの「入院当日の重症度、医療・看護必要度数値」が緊急入院率数値の目安になるだろう(図5)。GHC 病院では、紹介ケースにおける緊急入院率は11.3%だったが、入院当日の医療・看護必要度は27%であり16 ポイントのノビシロがあるといえる。
今回は、救急医療係数の評価の基となる、緊急入院率向上に向けてのステップと自病院における数値の妥当性についての検証方法を紹介した。次回改定におけるデータ収集期間は今年の9 月までだ。短期集中で新環境の中でのアクションに役立ててほしい。