2016 年度の診療報酬改定では、入院患者の重症度のメルクマールとなる「重症度、医療・看護必要度」の測定方法が見直される公算が大きい。これによって急性期機能の高さをより精緻に評価できるようになるのは歓迎すべきことだが、重症患者の受け入れ割合(重症度)の基準をぎりぎりでクリアしている7 対1病院にとっては要注意だ。看護必要度生データの提出によって過剰評価が明らかになれば、7 対1 の算定の返上を迫られかねず、データ提出が始まるのに先立って、今のうちから測定精度をチェックしておきたい。さらにDPC データと看護必要度データを結び付けて分析することで、何が見えてくるのかを考えてみよう。
看護必要度「急性期にふさわしく」16 年度も見直しへ
2016 年度診療報酬改定の全貌が固まりつつある。15 年12 月中旬の時点では、厚生労働省が同月9 日、中央社会保険医療協議会の総会で明らかにした7対1入院基本料などでの入院患者の「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)の測定方法の見直し案に大きな反響が上がっている。
看護必要度は、入院患者に医療的な処置や看護ケアがどれだけ必要かを数値化したもので、呼吸ケアを行ったかどうか、心電図モニターを使用したかなどを記録する「患者のモニタリングおよび処置等」(A項目)と、寝返りを打てるか、座位を保持できるか、車いすなどに移乗できるかといった身体機能を評価する「患者の状況等」(B 項目)の2 つの観点から評価する。
本来は入院患者の看護の必要量を判断するツールだが、現在では病院の急性期機能の高さを示す指標としての意味合いが強まっている。7対1入院基本料を算定するには、「A項目2 点以上かつB項目3点以上」の「重症患者」の受け入れを15%以上に維持する必要がある。
厚労省はこれまでに、看護必要度の評価項目について、急性期病院にふさわしい中身にする必要性を強調しており、近年の診療報酬改定で看護必要度の見直しがテーマになってきた。16 年度の診療報酬改定では、入院基本料にとどまらずさまざまな報酬にこの概念を導入する方向で議論が進んでいる。例えば、「総合入院体制加算」には「A項目2点以上」の患者の割合を導入する方向も示されている=図表1 =。
さらに厚労省は、今後の制度設計に役立てるため、看護必要度のデータを幅広く収集してDPC データと同様、統合EF ファイルの1 項目として看護必要度の生データ(患者・日別の項目ごとの点数)の提出を義務付けられることを提案し、了承された=図表2=。
病院の収入を大きく左右する入院料の算定をどう見直すか、複数の入院料を算定しているなら、急性期病棟でカバーするのにふさわしい患者をいかに集約するかが重要なことは、中医協の資料からも読み取れる=図表3=。そして急性期病棟への集約を進めるには、転棟・退院のタイミングの見極めがこれまで以上に大切になり、DPC データと看護必要度のデータを結び付けた分析がすべての急性期病院に求められるだろう。
重症者の割合がぎりぎりクリアの病院は要注意
DPC データと突合することで、看護必要度の生データの精度をチェックできるようになる。急性期機能の高さを客観的に評価できるようにするためには避けられない見直しだが、重症患者の受け入れ割合(重症度)の基準をぎりぎりでクリアしている7対1病院にとっては要注意だ。生データの提出によって過剰評価が仮に明らかになれば、7対1入院基本料の返上に追い込まれかねない。
データの精度を少しでも早く検証する必要があるが、看護必要度のデータを今のうちから正確に検証するのには一定のノウハウが求められる 。そこで注目したいのが、DPCデータを使う方法だ。看護必要度のA 項目はDPCデータと重複するものが多いため、これを使って看護必要度の測定精度を疾患ごとにチェックできるのだ。
図表4は、GHC が15年8月27日、福島県郡山市内で開いた「看護必要度勉強会」で報告した分析結果だ。勉強会に参加した全国18の急性期病院が分析対象で、14年10月 15年3月に退院した23万8512症例 を分析した結果、これらの症例が看護必要度の基準をクリアする日数の 割合は全体の18.20%で、「B項目3点以上」の基準のみをクリアできない日数の割合は11.36%だった。
ここから、「A項目2点以上」の基準を満たしている日数の割合を12ポイントほど低く見積もることで、病院全体での重症患者の割合を疾患ごとに概算できることが分かる。
各病院でシミュレーションする際には自病院の実際の重症度とDPCデータから算出した「A項目2点以上」(16年改定後は「M項目」を加味)との差を把握した上で分析すればベストだ。次に、自病院で把握している重症度と実際の状況はどれだけ乖離(かいり)しているかをチェックしてみよう。
図表5は、延べ在院日数に占める「A項目2点以上」の日数の割合を653病院で比較した結果だ。DPC データから把握することが難しい「シリンジポンプ使用および点滴ライン3本以上」による影響分を加味してご覧になってほしい。 分析対象は次の通り。
2015年5ー6月 653病院 退院症例
(15歳未満・小児科の症例は分析対象から除外)
図表5はこちら
これを見ると、「A項目2点以上」の症例割合には病院によって大きな差があることが分かる。図表4の結果を踏まえ、自病院で把握している重症度から12ポイントを差し引いた数字は、図表5の自病院の割合とどれだけ違うだろうか。もしも、自病院で把握している値よりも図表5 の数値の方が低ければ、意識的かどうかにかかわらず看護必要度が過剰評価されていると、疑う必要があるだろう。
「A 項目2 点以上」の症例は漸減 他病院のトレンドを押さえよう
図表6は、全国ベースでの DPC コード別の症例数トップ15だ。これらのうち、平均在院日数が20日より長く、一連の入院で転棟・転院の起きる可能性が高い肺炎、股関節大腿近位骨折、心不全、脳梗塞について詳しく見てみよう。
図表7から図表10までを見ると、「A項目2点以上」に該当する症例が、入院後しばらくしてから減少し始める傾向が各疾患で一致している。各疾患の曲線と自病院の傾向とにどれだけ差があるだろうか。ほかの病院の水準に比べてこの基準をクリアする期間が長いなら、モニターや酸素投与などをほかよりも長く実施している可能性がある。
このように、重症度の基準を満たさなくなるタイミングを疾患ごとに把握し、1日当たりDPC点数(日当点)、病院や病棟ごとの受け入れ割合とバランスを考慮して、クリティカルパスの見直しにつなげることができれば、重症度を安定的にコントロールできるようにもなる。
重症度割合の傾向を踏まえて ベッドコントロールを
看護必要度の生データそのものに踏み込まなくても、DPC データを活用すれば重症度の特徴を見極めることができる。ある程度治療が進んで看護必要度が下がりつつあるが、退院させるにはまだ早い症例をどう扱うか―。現場では一層シビアな判断を迫られることになる。
「重症患者」に該当するぎりぎりのタイミングまで待って退院を促すか、それとも院内の地域包括ケア病棟などDPC 対象以外の病棟に転棟させるか―。院内での傾向を的確に把握した上で、ベッドコントロールのフローの確立を進めていく必要がある。