急性期医療の本質がそこにある―鼎談 II群請負人(下)

 高度な急性期医療を提供する病院としての絶対的なブランドとも言える「II群」を手に入れるには何が必要なのか、その条件とは――。

 経営分析システム「病院ダッシュボードΧ」リリース直前の緊急企画として、数多くのII群病院の昇格・維持をコンサルティングしてきた「II群請負人」であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのシニアマネジャーの塚越篤子、マネジャーの冨吉則行と湯原淳平が、II群昇格・維持の本質を語り合う連載。後編ではII群病院にとって最も重要な実績要件と言える診療密度の今と未来、やりたい医療から求められる医療への転換、II群病院を目指すことが急性期医療の本質を目指すことにつながることを確認します。

I群在院日数短縮で足切りの可能性も

 今回の診療報酬改定で一番の気がかりは診療密度。多くのII群病院でも、これをどうクリアするかは悩ましいところなのではないでしょうか。結局、2016年度診療報酬改定で、「重症度、医療・看護必要度」が大幅に見直されて、7対1入院基本料の最重要要件とも言える重症患者割合が25%に上がったため、「I群の大学病院もやはり平均在院日数短縮の方向に大きく動くかもしれない」(塚越)。そうすると、「今の診療密度の基準値2513.24が相当上がるのでないかと予想しています。下手をすると2600になった場合、多くのII群病院が足切りになる可能性もあると考えている」(同)。

 これに対して湯原は、「可能性はありますね。大学病院は大学本体の経営悪化のためここ2年ぐらいで経営改善が強化され、平均在院日数の短縮はかなり進んでいる」と指摘。ただ、II群維持か脱落かの境界線上にある病院が多い一方で、「シミュレーションで2700と安泰の病院もあります」(冨吉)。この病院はひたすら平均在院日数を短くし続けていて、構築したばかりの入院サポートセンターも活用して、その動きをさらに加速させていっています。もちろん、集患も並行して頑張ってもらったからできたことです。

 「病院ダッシュボード」の係数分析では診療密度のシミュレーションもできるから、境界線上にある病院は常に状況をチェックできますし、伸ばしている病院は本当に伸びているかどうかなど、定期的に現状確認をして、改善行動に打って出ることができます。

情熱を見える化するためのデータ

 ところで、II群になったことによる端的な経営メリットは、収益でおおよそ1パーセントの増収。単純に年間200~300億円の売り上げの病院であれば、2~3億円の増収効果になります。しかし、本当にそれが経営メリットなのでしょうか。

 これに対して塚越は、「正直、増収効果という意味においては、それほど大きなメリットはない。それよりも重要なことは、やはり職員のモチベーション維持につながるということ。II群を獲得することが、どれだけ大変なことで、さらにそれを維持することがどれほど難しいことか。こうした困難なことを、やり遂げているのは自分たちであるということ。それをやり遂げることで、自分たちが患者、近隣の医療機関など地域にどれだけ貢献できているのか――。こうした価値あることを、自分たちが実現しているということを伝える誰かが必要です。それは、一人ひとりの医療スタッフの胸の内に秘められるものでも良くて、上長の励ましの言葉でも、後輩からの尊敬の眼差しでも、院長などの経営幹部からの激励の言葉でもいい」と訴えます。

 そのためには、データが必要です。自分たちの頑張りを客観的なデータで示し、他病院と比較してどれだけの位置にいるのかということが欠かせません。そのことを塚越は「医療スタッフたちの情熱を見える化するためのデータ」と言い表します。

「II群」という結果はどうでもいい

 冨吉は、あくまで個人的な感想として「一定規模の大きな組織がII群を目指さないのはどうかと思っています。確かに、何よりも病院ごとの理念やビジョンがあり、それをしっかりとやった上で、II群になれたら良しとする考えもあるかと思います。ただ、その考えはせっかくのII群という経営ツールを、検討もせずに手放すことにもつながるのではないかと思っている」と述べます。

 II群を目指すということは、とにかく急性期を指向すること、「急性期らしさ」を徹底的に追求することにつながります。そのため経営者にとって、急性期を極めるという点においては、II群というツールは入りやすいし、展開もさせやすいです。「急性期医療とは何か」という問いに対して、「本気で追求し、自らの病院の在り方を振り返ることができる」(冨吉)。

 例えば、自病院に足りないものを考えるとすると、それは診療科構成かもしれません。であれば、他病院を含めた外部環境分析をするわけで、その中で他病院より優れた診療科、他病院には絶対に勝てない診療科などが分かってきます。「だからこそ、どんな理由があるにせよ、一定規模の急性期病床があるのであれば、一度はII群を目指した方が、何より自分たちの病院を本当によく知ることができるきっかけになる」(冨吉)。

 そう考えると、「結果はどうでもいい」と冨吉は指摘した上で、その真意を次のように続けます。「II群という経営ツールに触れたかどうか、それを使いこなそうとして、自病院の現状に向き合えたかどうかが、何より重要なのだから」(同)。

連載◆鼎談 II群請負人

  1. 最重要はトップの強い意志
  2. 院内を一つにする最強ツール
  3. 強みが不明確な病院に患者はこない
  4. 迷ったら針路は「医療の価値」向上
  5. 入院医療の外来化、制度の遅れにどう対処
  6. 診療密度の「境界線病院」の未来
  7. やりたい医療から、求められる医療へ
  8. 急性期医療の本質が、そこにある
解説を担当したコンサルタント 塚越 篤子(つかごし・あつこ)

tsukagoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門シニアマネジャー。
テンプル大学教養学部経済学科卒業。経営学修士(MBA)。看護師・助産師として10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。済生会福岡総合病院(事例紹介はこちら)、砂川市立病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。新聞の取材対応や雑誌への寄稿など多数(「隔月刊 地域連携 入退院支援」の掲載報告はこちら)。

解説を担当したコンサルタント 冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

tomiyoshi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。金沢赤十字病院(事例紹介はこちら)、愛媛県立中央病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「コンサル視点が瞬時に分かる」をコンセプトに開発された次世代型病院経営支援ツール「病院ダッシュボード」の営業統括も務める(関連記事「病院が変化の先頭に立つために今できるたった3つのこと」)。

解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちらこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。