トリプル改定間近、急性期病院なら絶対に押さえたい3つの論点―7対1、退院支援、地域包括ケア病棟

 2018年度は、診療報酬改定、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬改定の3つの報酬改定が行われる。これをもって「トリプル改定」と称され、極めて重要な年となる。あわせて2018年度には、新たな医療計画(第7次計画)・新たな介護保険事業(支援)計画(第7期計画)がスタートするとともに、国民健康保険の財政責任主体が従前の市町村から都道府県に移管される。

 財政を担う都道府県が、医療提供体制をも所管することとなり、都道府県が強く「医療費の縮減」に動くことが予想される。そこで今回のメディ・ウォッチ・ジャーナルでは、診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会のこれまでの議論を振り返り、急性期病院なら絶対に押さえておきたい「急性期入院医療(7対1・10対1)の見直し」、「退院支援・在宅復帰の強化」、「地域包括ケア病棟の機能分化」の3つの論点に絞って確認していく。

改定の柱は「機能分化」と「地域包括ケアシステム構築」の2本

 各論に入る前に全体を俯瞰してみたい。

 まず改定の柱については、(1)病院・病床の機能分化・連携の強化(2)地域包括ケアシステムの推進―の2本となることは疑いがない。社会保障審議会の医療保険部会・医療部会で策定する「基本方針」は、本稿執筆時点で進行中であるが、概ね次のような「基本認識」と「改定の基本的視点と具体的方向性」を踏まえて設定される見込みだ。

【基本認識】

  1. 健康寿命の延伸、人生100年時代を見据えた社会の実現
  2. 地域包括ケアシステムの構築
  3. 医療・介護現場の新たな働き方の実現、制度に対する納得感の向上
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【改定の基本的視点と具体的方向性】

  1. 地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携に関する視点
    例えば、▼病床機能の分化・強化、連携に合わせた入院医療の評価▼退院支援、医科歯科連携、病診薬連携、栄養指導▼質の高い在宅医療・訪問看護の確保―など
  2. 新しいニーズにも対応できる安心・安全で質の高い医療を実現・充実する視点
    例えば、▼質の高いリハビリの評価などアウトカムに着目した評価の推進▼質の高いがん医療の評価▼難病患者への適切な医療の評価▼小児・周産期・救急医療の充実▼ICTなどの新技術を活用した医療連携、医療に関するデータの収集・利活用の推進―など
  3. 医療従事者の負担を軽減し、働き方改革を推進する視点
    例えば、▼チーム医療(タスクシェア、タスクシフトなど)、勤務環境の改善、医療従事者の負担軽減▼遠隔診療も含めたICTなどの活用―など
  4. 効率性・適正化を通じて制度の安定性・持続可能性を高める視点
    例えば、▼薬価制度抜本改革の推進▼費用対効果評価▼退院支援などの取り組みによる在宅復帰の推進―など―という3つの柱
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改定率、医療提供側と費用負担側で鍔迫り合いが激化

 また改定率についは、費用負担者、医療提供者のそれぞれで大きく異なる意見が出されている。

 まず医療提供者は、「医療機関経営の厳しさ」を重くみて、プラス改定を要望している。11月8日の中医協総会では、2016年度の前回診療報酬改定の前後で「医療機関などの経営は概ね悪化している」状況が示された(医療経済実態調査)。

 一般病棟全体では、損益(医業収益+介護収益-医業・介護費用)比率が、改定前の2015年度には▲3.7%だったが、改定後の2016年度には▲4.2%で、0.5ポイント悪化している。厚労省は「過去と比べても、下から3番目に悪い数字である」とコメントしている。

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 さらに開設主体別に見ても、次のようにおしなべて「悪化」している。

【医療法人】2015年度(改定前)2.1%→2016年度(改定後)1.8%:0.3ポイント悪化
【医療法人+公的(日赤や済生会など)】2015年度(改定前)0.4%→2016年度(改定後)0.1%:0.3ポイント悪化

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【国立】2015年度(改定前)▲1.3%→2016年度(改定後)▲1.9%:0.6ポイント悪化
【公立】2015年度(改定前)▲12.8%→2016年度(改定後)▲13.7%:0.9ポイント悪化

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【国立+公立】2015年度(改定前)▲10.2%→2016年度(改定後)▲11.1%:0.9ポイント悪化

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 この数字に対しては、費用負担者側から「異論」が出ている。

 まず中医協の支払側(保険者など)は、改定前後だけでなく、さらに前からの「経年変化」に着目。その結果、例えば一般病院では「国公立を除く全体では、2014年度と2016年度を比べるとマイナス0.3%の赤字から0.1%の黒字へと改善している」ことなどを指摘し、「国民負担を軽減するために、2018年度にはマイナス改定が必要」との要請を11月22日に、加藤勝信厚生労働大臣に行っている。

 また国費(医療費の4分の1は公費で賄われている)を負担する財務省は11月8日に、医療経済実態調査では「回答医療機関に偏りがある。実際の構成に補正すれば、国公⽴を除く⼀般病院は、前回改定時より損益はむしろ改善している」と強調。これに先立つ10月25日の財政制度等審議会・財政制度分科会で「2%台半ば以上」のマイナス改定が必要と訴えている。

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 年末の予算編成過程において、おそらく菅義久内閣官房長官、麻生太郎財務大臣、加藤厚生労働大臣の3者会合が設けられる。改定率はそこで決まることになるが、本稿執筆段階では「診療報酬本体そのもはプラス改定となるが、財源はそれほど多くなく、比較的厳しい改定となる」可能性が高いと予想している。

 厳しい改定率が設定された場合、中医協論議は「診療側vs支払側」というよりも、「診療側vs診療側」の様相が強くなる。具体的には、比較的堅調な「調剤報酬」、とくに大規模薬局の報酬を引き下げ、医科・歯科の財源を確保すべきとの動きが出てくる。

7対1・10対1の入院基本料を統合・再編(急性期入院医療の見直し1)

 上記の議論を踏まえて、まずは「急性期入院医療(7対1・10対1)の見直し」から確認していく。

 高齢化の進展で、▼「多くの医療資源投入が必要」な医療ニーズは減少し、▼「中程度の医療資源投入が必要」な医療ニーズが増加していく――。このため、専ら前者「多くの医療資源投入が必要」な医療ニーズに対応する7対1病棟の必要性が減少していくことになる。一方で、後者の「中程度の医療資源投入が必要」な医療ニーズに対応する10対1病棟の必要性が増すが、現在の診療報酬点数に照らせば、7対1病棟から10対1病棟への移行にはさまざまな障壁がある(200床、稼働率100%の場合、年間1億5000万円近い収益の格差がある)。

 7対1病棟と10対1病棟では、その評価指標の1つとして「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に該当する患者割合」(以下、重症患者割合)が用いられている。しかし、7対1病棟と10対1病棟とで重症患者割合の分布を比較すると、「10対1病棟では正規分布に近くなっているが、7対1病棟では25%を超えたところに集中的に分布する、やや異常な分布になっている」ことが分かった。この背景には、▼7対1病棟では施設基準のカットオフ値(25%以上)として活用される▼10対1では、加算による段階的評価指標として活用される—との違いがある。

 中医協の下部組織である「入院医療等の調査・評価分科会」では、重症度、医療・看護必要度のA・B・C項目の性質などを詳しく分析。その結果、▼B項目は「入院による管理の必要性・患者の状態の変化を横断的に把握する」手法として優れている▼看護必要度A・C項目は「変動的な要素」を評価する手法として優れている—との結論に至っている。

 これらを総合的に踏まえ、厚労省は11月24日の中医協総会に、次のような「7対1・10対1入院基本料の再編・統合」案を提示した。

  1. 看護職員配置や平均在院日数などを施設基準とする「急性期の入院基本料の基本部分」を設定する(例えば10対1看護など)
  2. 重症患者割合などの診療実績に応じた「急性期の入院基本料の段階的評価部分」を設定する

 (1)と(2)を組み合わせた「急性期の入院基本料」を何種類(おそらく3-4種類程度)か設定することが考えられ、厚労省は「現在の7対1と10対1の中間的水準の評価を設定する」(7対1から10対1への円滑な移行を可能とするため)、「診療実績が最も高い病院では、現行報酬との整合性を考慮して、7対1看護配置を求める」、「評価の単位は『病院単位』が好ましいのではないか」といった考えも示している。

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看護必要度評価票からEF統合ファイルへの置き換えも検討(急性期入院医療の見直し1)

 あわせて厚労省は、▼重症度、医療・看護必要度項目の一部見直し(C項目にある開腹手術の期間短縮など)▼重症患者割合の計算方法について、DPCのEF統合ファイル採用も認める(医療機関の選択制とする)―考えも示した。

 後者は、医療現場の負担軽減を狙うもので、厚労省は「重症度、医療・看護必要度とEF統合ファイルは性質が異なるので、完全一致はしないが、一定の重なりがある。ただしEF統合ファイルを用いた場合、重症患者割合が低くなる(重症度、医療・看護必要度の評価票を用いると平均28.8%だが、EF統合ファイルを用いると23.3%)ので、その辺を考慮した基準値を設ける」考えも提示している。

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 こうした厚労省提案に対し、中医協では、診療側のとくに日本医師会代表委員から「報酬体系の見直し(7対1と10対1の再編・統合案)を実施するのであれば、重症度、医療・看護必要度の項目見直しなどはすべきではない」旨を強く求めている。

入院前からの「退院支援」を評価(退院支援・在宅復帰の強化1)

 7対1病棟に限らず、あらゆる病棟で「在宅復帰の強化」が求められている。不要な入院は、▼患者満足度の低下▼医療の質の低下▼医療費増—を招いてしまうためで、この観点では「積極的な退院支援」が今以上に求められていく。また、在宅復帰の強化は「急性期度の向上」にもつながり、7対1の維持などの副次的効果もある。

 2016年度の前回診療報酬改定では、従前の「退院調整加算」を見直し、「退院支援加算」に組み替えた。具体的には、▼施設基準を厳格化(病棟に地域連携業務に専従する看護師などを配置する)した【退院支援加算1】▼従前の退院調整加算に該当する【退院支援加算2】▼新生児の退院調整・支援を評価する【退院支援加算3】―の3区分となっている。

 ところで退院支援加算は、すべての退院患者に算定できるわけではない。加算1と2では主に「退院困難な要因を有しながら、在宅療養を希望する患者」が算定対象で、具体的には▼悪性腫瘍、認知症、誤嚥性肺炎などの急性呼吸器感染症のいずれか▼緊急入院▼要介護認定の未申請▼排泄の要介助▼入退院を繰り返している—などのほかに、「その他、患者の状況から判断して上記に準ずると認められる場合」も含まれる。厚労省は8月24日の入院医療分科会に、この「その他、患者の状況から判断して上記に準ずると認められる場合」として、病院側が具体的にどういう状態と考えているのか調べ、次のように整理した。

【入院早期から把握し、速やかに関係機関と連携し、入院中から支援する必要があるケース】
▽家族からの虐待や家族問題があり支援が必要な状態
▽未婚などで育児のサポート体制がないため、退院後の養育支援が必要な状態
▽生活困窮による無保険、支払い困難な場合
▽保険未加入者であり市町村との連携が必要な場合 など

【入院早期に「入院前に利用していたサービス」を把握し、退院後に向けた調整が必要なケース】
▽施設からの入院で、施設での管理や療養場所の選択に支援が必要な状態
▽在宅サービス利用の再調整や検討が必要な状態

 2018年度の次期改定では、こういった点を踏まえた「退院支援加算の対象患者」の明示が進むものと考えられる

 この退院支援加算を算定するためには、入院後早期に前述の退院困難な患者を抽出し(加算1では3日以内、加算2では7日以内)、早期に患者・家族と面談し(加算1では7日以内、加算2ではできるだけはやく)、早期に多職種による退院支援に向けたカンファレンスを実施する(加算1では7日以内)ことが必要だ。

 この点、一部の病院では「入院前」から、退院支援に向けた取り組みを行っており、それが円滑な退院に効果をもたらしているという。厚労省の行った調査によれば、7対1病棟・療養病棟の2割程度、10対1病棟・回復期リハビリ病棟の3割程度、13対1・15対1病棟の4割程度、地域包括ケア病棟の5割弱では、入院前から担当ケアマネがおり、半数超で「ケアマネからの情報提供が有用であった」と感じていることが分かった。

 さらに外来患者が自院に入院する際に、6割超の病院では「連携のための部署・窓口」を整備しており、3割超の病院では「看護師などが調整を行っている」ことも分かっている。ここから、2018年度の次期改定において、ケアマネや自治体などと連携した「入院前からの退院支援」などを評価することになりそうだ。

 なお、退院支援加算の創設に合わせて、従前の地域連携診療計画管理料(B005-2)、地域連携計画加算(A238退院調整加算の加算)などを、A246退院支援加算の加算【地域連携診療計画加算】に整理・統合している(いずれも、いわゆる地域連携パスを用いた連携を評価するもの)。

 しかし、その算定状況は2016年度改定後に大幅に減少。この原因の1つとして、地域連携診療計画加算は『退院支援加算1と3の加算』という点がある(退院支援加算1・3を届け出ていなければ、地域連携診療計画加算は算定できない)。このため、2018年度改定で算定要件の見直し(緩和)が行われる可能性がある。

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在宅復帰率の定義・計算式を見直し(退院支援・在宅復帰の強化2)

 このような状況を踏まえ、さまざまな病棟において「在宅復帰率」が施設基準の1項目となっている。

 しかし、例えば7対1病院においては、「在宅復帰率80%以上という基準に苦しんでいる病院は極めて稀で、指標としてふさわしいのだろうか」といった指摘がある。そこで厚労省は、2018年度改定で、▼在宅復帰先として「自院の他病棟への転棟患者」はカウントから外す▼療養病棟については、在宅復帰機能強化加算の算定有無に関わらず、在宅復帰先としてカウントする▼自宅などへの退院患者と、他医療機関への退院患者とを区別して報告してもらう—といった見直しが検討される。

自宅などからの入棟患者を手厚く評価(地域包括ケア病棟の機能分化1)

 地域包括ケア病棟は、▼急性期後の患者受入(いわゆるpost acute機能)▼在宅療養患者の急性増悪対応(いわゆるsub acute機能)▼在宅復帰機能—の3機能を併せ持つ新たな病棟として、2014年度の診療報酬改定で創設された。

 この点、主に「急性期病棟からの転院・転棟患者」を受け入れている病棟と、「自宅などからの入院患者」も積極的に受け入れている病棟とがあり、次のように後者のほうが「状態が不安定」な傾向があることが分かっている。

 ▼患者の医療的な状態を見ると、「安定している」患者の割合が、「自宅などからの入院患者」(67.1%)では、「自院の7対1などからの転棟患者」(76.2%)、「他院の7対1などからの転院患者」(70.7%)より低い

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 ▼医学的な要因以外で退院できない患者の割合を見ると、「自院の7対1などからの転棟患者」(17.3%)では、「他院の7対1などからの転院患者」(10.6%)、「自宅などからの入院患者」(8.2%)に比べて高い

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 ▼状態が不安定で急性期治療を行っているので退院できない患者の割合を見ると、「自宅などからの入院患者」(26.7%)では、「自院の7対1などからの転棟患者」(8.6%)、「他院の7対1などからの転院患者」(3.2%)よりも高い

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 このため、「自宅などからの入院患者」の評価を、「急性期病棟からの転院・転棟患者」よりも手厚くすることが必要ではないか、と考えられる。

 厚労省は、11月24日の中医協で、【救急・在宅等支援病床初期加算】に着目し、前者(自宅などからの患者)と後者(急性期病棟からの患者)とを区別して評価する考えを明示した。

 この初期加算は、(1)急性期を担う他院の一般病棟(2)自宅・介護老人保健施設・特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど(3)急性期を担う自院の一般病棟—からの患者について、14日まで、1日150点が入院料に上乗せされるもの。例えば、(2)の「自宅・介護老人保健施設・特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど」からの患者で、加算の点数を引き上げ、(1)と(3)の患者で加算点数を引き下げることなどが考えられそうだ。

訪問サービス提供などより多様な機能を(地域包括ケア病棟の機能分化2)

 また地域包括ケア病棟については、(a)介護保険の「訪問系サービス」の提供も届け出要件の選択肢に加える(b)在宅医療、介護サービス提供など、地域包括ケアシステム構築により貢献できるよう、これらサービスの提供実績を評価する(c)新設制限(1病棟に限定)を許可病床数400床以上の病院に拡大する(現在、ICUなどを設置する病院や許可病床数500床以上の病院で新設制限)—考えも示された。

 このうち(a)は、地域包括ケア病棟の届け出要件として、「▽在宅療養支援病院▽在宅療養後方支援病院▽二次救急医療施設▽救急告示病院—のいずれかであること」という選択要件の中に、「通所リハビリなどの訪問系サービスの併設」などを加えてはどうかという提案である。

 また(c)に関連して、日本医師会は、かねてより「大規模急性期病院が地域包括ケア病棟を設置することは好ましくない」と主張しており、さらなる新設制限強化が行われる可能性もある。

 今回は、「急性期入院医療(7対1・10対1)の見直し」、「退院支援・在宅復帰の強化」、「地域包括ケア病棟の機能分化」の3つの論点に絞って確認してきた。これら論点は年末年始にかけてさらに議論を詰めていくし、そのほかの論点の動向も重要だ。議論の状況は「メディ・ウォッチ」で随時発信していくので、こちらも併せてご確認いただきたい。