改定直前!貴院のDPCデータ記載は大丈夫か!?、市中肺炎の重症度分類毎のアウトカムの相違から考えるデータ記載の重要性

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 2016年診療報酬改定の大部分の内容が明らかになり、DPC制度では、「糖尿病」「肺炎」「脳血管疾患」で、「CCPマトリックス」評価が導入されることとなった。CCPマトリックスでは、患者の「重症度」に応じて適切な医療が提供できているかが、重要な評価ポイントとなる。では実際、「重症度」の違いが果たして、どの程度、在院日数、死亡率、医療資源投入量などに影響しているのだろうか。今回は、「肺炎」に注目し、重症度分類別のアウトカムの違いを検証。さらに、各医療機関の肺炎の重症度分類の記載状況における病院間の違いについても分析した。

はじめに

 2016年度診療報酬改定では、「糖尿病」「肺炎」「脳血管疾患」の3疾患を対象に「CCPマトリックス」評価が導入されることになった。

 従来のDPC制度は、1つの傷病に対してあたかも樹木の枝が伸びるように治療法や使用医薬品に基づく評価が行われていたが(いわゆる樹形図、ツリー図)、「患者の重症度を十分に評価しきれていないのではないか」との指摘があった。

 これに対して、CCPマトリックスは、治療法や使用医薬品などに加えて、患者の重症度をマトリックスにして整理することで、「患者の重症度」に応じたコスト評価が可能となる。

 今後、CCPマトリックスが導入された場合、「患者の重症度」の判断材料となるDPCデータの記載内容を誤ると、その誤差が収益に直結する。DPCデータの正確な記載は、経営の側面からも見ても欠かせない重要な論点となる。

 そこで、本章では、CCPマトリックスが導入される市中肺炎をケーススタディとして、DPCデータにおける「肺炎の重症度分類」ごとに、在院日数、死亡率、医療資源投入量がどれくらい異なるのかを検証した後、各施設におけるDPCデータの記載状況を可視化する。

 分析対象は、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが保有するDPCデータより、下記の条件を満たす644病院1万9,722症例とした。

【分析条件】
(1)2015年7月~9月退院症例
(2)040080x099x0xx肺炎、急性気管支炎、急性細気管支炎(15歳以上) 手術なし 手術・処置等2なし
(3)DPC外病棟転棟症例は除く
(4)様式1「肺炎の重症度分類」において「9:不明」の記載がある症例は除外
※市中肺炎を対象として分析を行うため、重症度分類「院内肺炎 又は市中肺炎」のフラグは無視する

重症度分類とアウトカム

 まず、「肺炎の重症度分類」の評価項目ごとの年齢・在院日数・死亡率・医療資源投入額を表1に示す。

 どの項目においても、“1”のフラグが立つケースで死亡率が高く、特に、SpO2(動脈血酸素飽和度)、意識障害と血圧では顕著であった。重症度分類の有用性が伺える結果である。

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 次に、重症度分類の組み合わせの状況から、重症度のフラグ数とコストの関係を見てみよう=図表2=。

 データ期間において重症度のフラグが立っていない「000000」が全体の3割以上を占めている。重症度に「1」の記載がある症例と比較すると、フラグが立っていない症例は若年層が多く、早期に退院し、医療資源投入量も抑えられていることが確認できる。

 重症度のフラグが2点立っている「110000」とフラグが立っていない「000000」を比較すると、死亡率で6.2ポイント、在院日数で5.1日、医療資源投入額で約5万円の差異が生じている。重症度のフラグ数がコストに影響していることが確認できる。

 「000000」と重症度のフラグが2点立っている「110000」の在院日数分布を比較してみる(図表3)と、「000000」では8日が最も多いが、「110000」では11日の症例が最も多くなっている。市中肺炎は急性炎症性疾患のため、全面的なパスの作成・運用は困難といわれ、パス運用をするにしても部分的なパスを用いる施設が一般的だ。

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 今後、CCPマトリックスが導入された場合、「患者の重症度」に応じて、現行の部分パスを再度、見直すことをおすすめしたい。

CCPマトリックスとデータ記載の重要性

 最後に、CCPマトリックスが導入された場合、「患者の重症度」の判断材料になるDPCデータの入力記載状況を見てみよう。

 図表4は今回の分析データの中で「肺炎の重症度分類」がどのように記載されているのかを見たものである。

 肺炎の重症度分類は2010年度から必須記載項目になったにも関わらず、一部の施設では9割以上の症例で未入力となっている。

 また入力されたデータの中で「不明」とされる“9”の入力割合は、全症例に対する平均では5.5%と非常に低い水準だが、病院間で差が大きいことが分かる。データの正確性の観点から、“9”の入力が多い病院は、これまで以上に診療部門、医事部門、診療情報管理部門の連携が必要になってこよう。

 CCPマトリックスが導入された場合、DPCデータの誤記は収益に直結する。誤記が多ければ、それが収益へマイナスの影響を与えることになり、経営に与えるインパクトも大きい。「月刊メディ・ウォッチ」読者の各施設データの記載状況を本稿末尾に(付録)として画像リンクを示したので、是非とも貴院のデータ記載状況を確認していただきたい。

終わりに

 肺炎の重症度分類による在院日数、死亡率、医療資源投入量の違いは大きく、CCPマトリックス導入により、適切なコスト評価が可能になった。

 今後は重症度別にDPC点数が設定されるため、各施設では、改めてDPCの基本に立ち返り、診療内容の確認を行っていただきたい。また、診療部門、医事部門、診療情報管理部門の連携の上、院内全体で正確なデータ記録に対する意識向上が益々重要となる。

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解説を担当したコンサルタント

森本 洋介(もりもと・ようすけ)

morimoto 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。
慶応義塾大学経済学部卒業後、国家機関で薬事行政に携わり、入社。DPC・外来・財務・看護必要度・地域連携・人口動態等、多岐に渡るデータの解釈による現状分析・将来予測などを得意とする。公立がん拠点病院(関東甲信越400床台)など多数の医療機関のコンサルティングを行う。